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彼女は彼女を天使と呼んだ(93)

 手のひらの髪の毛。対し、砂が削り取っていったのだろう。魔法円やおどろおどろしい一切はその場に跡形もない。備品類も棚ごと吹き飛び、壁にその跡が影となって残っているだけ。
 空っぽの部屋に自分たちだけ。
 ただ、剣が消えている。
「え?吹き飛んだ?」
 高千穂登与がうろたえた。
 理絵子は彼女にゆっくり首を横に振って見せた。
「判るでしょう。心を澄ませて……」
 ある。霊的な剣である。故に次元が高くて肉眼で見えず、手で触れることも出来ない。今さっき触れられたのは、アルヴィトの力。
 そして剣は恐らく、本当に必要となった時取り出すことが許可される。
 この処置はアルヴィトの封じであると理絵子は知った。容易なことでは剣を持てない。不用意に霊能を発揮するならば、悪意ある者にこの剣の存在を察知されることになる。それがどれほど危険なことかを自分たちは知っている。
 秘密にせざるを得ないように仕向けたのである。
 それは安易な行動への戒めであろうし、一般化して自分たちが〝特殊能力〟に頼りすぎることへの戒めを意味しよう。
 しかも、二人共通の秘密。
 理絵子は気付く。ヒミツの共有が意味するもの。
「言っちゃだめ」
 聖なる名を口にしようとした高千穂登与を、理絵子は唇に指当て制した。
 代わりに、ただ二人見つめ合い頷き合う。光発するかのような瞳が自分を見つめる。
 それは認められ、自信を得た瞳。
 彼女は脱した。
 人々の足音。健太君が自分たちと彼らを交互に見ている。
「おーいりえぼー」
「これは……何があった?」
 様相一変の部屋を見てメタボ氏が問うた。健太君と同じセリフなのは、他に言う言葉が無いとも言えた。

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