気付きもしないで【16】
靴を脱いで上がり込む。成瀬ん家じゃない女の子の部屋。
歩いているのに地が足に着いていないこの感じ。
「座って座って、あのね」
成瀬以外の女子がオレを笑顔で迎えてくれる。
オレは言われるまま部屋に入ってカーペットの上に腰を下ろす。
「楽にしてよ。お友達なんだし」
「あ、じゃぁ」
あぐらを掻く。〝相手の家で屁をすりゃ親友〟ってのがオレ達の地区で伝えられているが(なんだそりゃby作者)、これはもちろん、そういうんじゃない。
友情を越えた、親友とは違う、この何かは。
「あのね、来週から学校行こうかなと思うんだ」
雪乃ちゃんはベッドに腰掛け、足をぶらぶらさせながら、笑顔で言った。
その意味の重要さに気付き、オレの頭は浮かれ気分から強制着陸。
「あ、そう。そうなんだ。それは良かった。成瀬には?」
「まだ。大樹君に先にと思って」
オレは、言葉に撃ち殺された。
この胸の詰まりや浮ついた感じ、何より、彼女の声を喜んで聞いてる理由が何か、自分で答えが出たからだ。
オレは彼女が好きなんだ。
あの、可愛いと思った昨日あの瞬間、オレはフォーリンラヴしたのだ。
「成瀬さんもありがとうと思うけど、大樹君は本当にお友達になってくれたと思うし」
雪乃ちゃんは言い、駅の花を気に掛けていたのが嬉しかったと言った。
「花好きな男の子に悪い人はいないって母さんも言ったし」
そ、そうかいな。
逆に言えば雪乃ちゃんはそういう感性であって、例のヘンなウワサは根も葉もない、なのは言うまでもないだろう。
実際彼女から聞いたのは、それまでたった一人の生徒であり、対していきなり大人数の学校に通う不安があった。あと、小さい頃、人込みに出た時、過換気症候群の発作が出たことがあった。その辺で医師の薦めもあって先延ばし。ただ、その半年は週に一日、様子見がてら本校に通っていたとのこと。
「この地区、こういう場所でしょ。みんな雪乃ちゃん雪乃ちゃん可愛がってくれるからさ。でも変だよね。人が多くなるのに逆に心細くなるって」
「変じゃないでしょ」
オレは思わず言った。
(つづく)
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