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ブリリアント・ハート【22】

「ほら、やっぱ“やるっきゃない”のよ。そういう不安と義務感の間で事を進めて行く能力を持ってる人間が“大人”ってやつ。経験しないとその能力も身に付かない、と。あなたはね、あすか、大人の入り口に立ったのよ。そして、このお姫様の講演を聴きに行くことで、一歩、踏み出したのよ」
 母親は言った。
「大人の入口…」
 あすかちゃんが呟く。
 電話が鳴り、母親が席を離れる。
「自分のあるべき姿を意識する。テツガクするってのは大人の始まりかもね」
 レムリアは納得しながら言った。母親の言葉は極めて正鵠を射ていると思う。教育ママ風と捉え、確かに熱心な様子だが、子どもに対する見方は“勉強一本槍”の悪い意味の教育ママとは一線を画するようだ。
 その時だった。
「え?」
 電話口の母親が声音を変え、こちらを向いた。
 


 
「警察来たって」
 驚いたのはレムリアよりもむしろあすかちゃん。
 レムリアは“まずい”とは思ったが、声に出すなどはしなかった。
 ここから去らねばと思う。“誘拐説”がある以上、ここに自分がいることは迷惑になる。
 要するに潮時ということである。こういうのは初期状態にリセットしてナンボ。
「すいません失礼します」
 麦わら帽子を手に、玄関へ向かおうとするレムリアの行方を、母親が腕で遮る。その意図は“ちょっと待ちなさい”。
 母親は電話に向かって頷いた。
「…うんそうする。判ったありがとう」
 電話を切らずに受話器を置く。そして。
「中村さんが手を貸してくれるというから、ベランダから回りなさい。あすか、案内してあげて。靴を取ってきて」
 母親が指示する。降って沸いた事態と指示に、あすかちゃんの目が真剣な色を帯びる。
「…はい!」
 あすかちゃんが走り出す。それは目覚めたというか、スイッチが入ったというか。
 玄関の呼びチャイムがピンポンと鳴った。

つづく

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