気付きもしないで【15】
古淵雪乃ちゃんと仲良くなった。
この結果を成瀬は学校に報告した。今回の訪問が学校の依頼による〝任務〟なのは事実だからだ。
すると、学校は雪乃ちゃんの復帰準備委員をオレ達に任命して寄越した。コミュニケーションの充実と、ブランク期間の勉強をバックアップしろ。
別に構わねーよ。てか。
これで大手を振って〝遊び〟に行ける。天下御免のライセンス。
そして放課後。
「今日はひとりけぇ。ボーイフレンド」
オレの影が横切って気付いたか、若林のおじさんは草むしりを中断して、田んぼから顔を上げた。
またおいで。……昨日確かにおじさんは言った。
言った通りになったのだとオレは気付かされた。
実は予言者か。
「はぁ、まぁ」
「女の子の仲立ちはもういらんのけ?」
「て、てゆーか、あのオンナ数学苦手だし。だったら、オレ一人で充分かなって」
「ひっひっひ。そうけぇそうけぇ、そら引き留めて悪かったよ。行って行って。いいってコトよ。行ってやって。行きてえんだろ?言わないよ。言えねぇよ」
おじさんは〝津軽海峡冬景色〟を口ずさみながら草むしりに戻った。
その歌詞を含め、何か意図の介在を感じるがまぁいい。オレは彼女に数学のカテキョ(家庭教師)に来たに過ぎない。
着いたらお母さんが玄関で打ち水。
「雪乃。大樹君よ」
かしこまった挨拶も抜き。
「ど、どうも」
軽やかな足音が走ってきて、サンダルをつっかけて。
「こんにちは」
白昼の満月が引き戸の影から顔を出し、オレに向かって微笑んだ。
ポニーテールで、首が細いから、なおさら満月。
何だろ、息苦しい。
「その、成瀬から……」
「聞いてる。ありがと、入って」
違う、胸が詰まるってやつ。
オレを待ってる女の子がいてくれるという現実。
そしてそう、オレは彼女に会いに来た。
会いたくてここに来た。
確かに数学の家庭教師も否定しない。でもメインは彼女に会うこと。
主客転倒?いいや。
最初からこうだったんだ。
(つづく)
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