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気づきもしないで【14】

「お待たせしました」
 泡だらけの緑色。新種のエスプレッソ……じゃない。
「わぁお抹茶だ」
 成瀬がゴツゴツした茶碗を手にして言った。抹茶……オレの脳みそに記録されているのは、苦いってのとアイスクリーム。確か作法があって決まり文句があって……
「け、結構なお点前で」
 オレが言ったら、女性陣が揃って大笑い。
「それ素?ギャグ?念のため聞くけど〝ごちそうさまでした〟って意味だよ。判ってるよね」
 成瀬が言った。そのセリフはオレの頭を銃弾のように撃ち抜いた。耳まで真っ赤とはこのことか。
 成瀬の顔は笑いすぎたか垂れ目になっており、目尻には涙の玉まで浮かべている。
 てめー涙が出るほど可笑しいか。思ったが、彼女なりのフォローだとも思った。
 それならば。
「お前オレのことナメてるだろ。オレほどになるとな、見れば判るんだよ」
「何が?銘柄?」
「馬鹿者。茶は心だ。お母様の温かい心遣いがひしひしと伝わって来る」
 すると……これは援護射撃なのか?
「氷で冷やして持ってきたんですが」
 お母さん。
 お母さん。それ、わびさびならぬわさび効き過ぎ。
「すいませんボクが嘘つきでした」
「あはははははっ!」
 枕抱えて笑い転げたのは雪乃ちゃん。
「男の子って……もっと女の子の前ではええかっこしいだと思ってた」
 それこそ目尻の涙玉を指でこすってオレを見る。
 オレはそんな彼女の瞳を見返す。
 これは、何かの、始まり?
「雪乃と遊んでやってくれますか?」
 お母さんの問いに。
「はい」
 オレは何のてらいもなくスッと答えた。

つづく

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