【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【28】
私は言いました。要するに生き物がいつ死ぬかなんて判らない。
ただ、正確なことを言うとこのセリフには嘘があります。交尾した後メスに食べられるオスはいますし、アリのオスは女王と結婚飛行に臨んだ後、数時間以内に死を迎えます。
すると。
「糸だけみんな出しておいてくれよ」
ゆたか君は言いました。
〈フワフワするだけなんだけど〉
「判ってる。ちゃんと飛び出さないようにこうしておくよ」
糸がキラキラ光りながら流れ出し、ゆたか君は手のひらを包むように閉じます。
大事なものをそっと手で包むように。
〈暗いぞ〉
〈でも、あたたかいね〉
繰り出された糸が伸びて行きます。
まるで綿毛が伸びて行くかのようです。
その時。
風が吹きます。
超感覚が多くの悲しみの訪れを告げます。
つまり。
言伝だけは許される。
「危ない!」
私は叫びました。
ただ、その危機の正体は、彼でも、クモ達でもなく。
私自身。
寄って立つこの大地の底が抜けます。Vの字の崖になっていると書きました。それは裂けて落ちる可能性が常にあるということ。
足の下の土が消え、出来た空間からドッと風が吹き上げてきます。私の身体は投げ出され、その気流に乗り、持ち上げられます。
背中の翅で飛べるということ。それだけ身体が軽いということ。
飛ばされる……逃げる……どうやって。
翅……広げれば余計に風を受けるだけ……テレポーテーション……自分だけ?
私は次第に持ち上げられて行きます。先ほど谷底を気にしましたが。
上は上で、どこへ?
すると。
〈人間!妖精さんを助けるんだ!〉
それはカミラがゆたか君の手の中から発した〝命令〟。
「おう!」
ゆたか君は応じ、下ろしていた糸玉を背負い、何ら躊躇無く、風の中に身を投げました。
〈クモになれ!少年!〉
ゆたか君は背中の糸玉に手を突っ込みました。
次いで引き抜くと、滑空するクモのように、両の手足を広げました。
(つづく)
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