ブリリアント・ハート【26】
東京。
「はい」
『何かあったか?無罪放免されたぞ』
「タクシーの運転手さんが犯人役を買って出てくれて警察を引きつけて。…今、用事自体は終わって、友達と駅まで着いたところ。これから帰る」
『あーそれだめ』
東京は即座に言った。
「なんで?」
『誘拐が起こった時、警察が何を防ごうとするかって高飛びだ。高速道路と空港と新幹線は重点警備対象。君のホテルはどこにある?都心部へ向かう電車に乗るなんざもってのほか。その友達を犯人にしたい?』
「じゃぁどうすれば…ごめん、私のわがままなのに。でも…」
ここまで来たならば、是が非でもジェームズ=ボンドとなって、誰も責任を問われない結末としたい。根拠もないし漠然としているが、きちんと戻りさえすればどうにかなるという楽観論が意識にある。少なくとも初期状態、すなわち、何もなかったのと同じ状態に戻りさえすれば、とりあえずシラを切り通せる立場にはなれる。そうなれば、多分、多分であるが、何とかなる。
無論、独力で完遂出来れば何も問題はない。しかし現実には組織力と情報網を持つ必死な公営(?)団体が相手だ。そんな状況下でも唯一、わがまま言って迷惑掛けても良い(!)と思うのは東京だけ。
と、東京は、とんでもないことを言った。
『裏をかく。二つ隣の駅から、博覧会会場行きのシャトルバスが出ている。それに乗って』
「は?」
行きたいのは都心部ターミナルである。まるで逆に行ってどうしろと。
思いながら耳を傾けると、東京は、会場に着いたら別のバスに乗り継げと言った。ターミナル駅のバスセンターへ向かう、やはりシャトルバスがあるというのだ。ちなみに、そのバスセンターは、レムリアの宿泊するステーションホテルの裏である。
唖然、呆然、驚嘆。
「そんなこと良く考えつくね」
『ヲタクですから。それに、会場に行くバス、会場から来るバスには見学客しか乗っていない…。普通、そう考えるし気を回さないだろう。仮に、そこまで気にして警備の網を掛けたら大混乱だしね。そこを突く。さぁ行け。立ち止まるな。確かバスは30分間隔だ。一人で行けるかい?』
「それなら友達に訊きながら…あすかちゃん、二つ隣からシャトルバスに乗りたい」
レムリアは主旨だけ伝えた。
「会場?いい…けど…?」
意図を判じかねている様子。
「見学じゃないんだ。説明は後で。あ、これ持ってるよ」
レムリアは件のカードを見せた。
「あ…うん、じゃぁとりあえずこっちへ」
あすかちゃんが走り出す。
「ありがとう」
レムリアは電話に向かって言い、彼女を追った。
(つづく)
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