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気付きもしないで【19】

 まぁ、この事態の背景が何かは、想像がつく。
 遠巻きの目線。避けるというか、攻撃的というか。
 ウワサであり、ウワサに基づく誤解であり。
 ちょっと待て。
 気がつく。オレがこうなら成瀬は。
「え?何であたしが?」
 壁の向こうから聞こえてくる、彼女の怒鳴る声と、
 早口で、責めるような、トゲのある女子達の声。
 危険を察知してオレは教室を飛び出す。
「あっ!町田!逃げんのか!」
「待てテメー」
 待つ気があるなら動かねーよ。
 廊下を走り、成瀬の教室。
「大丈夫か!」
 飛び込むと、成瀬と向かい合い、厳しい顔つきの女子が何名か。
 一斉にオレを見る男子の顔女子の顔。
 冷たいことは自分のクラスと同じ。
 その自分のクラスから追いかけてきた足音が背後で止まる。
「あ、タイキ」
 振り返った成瀬の顔は、幼い頃一度だけ見たことがあった。
 公園に野犬が入ってきた時、オレを振り向いた顔だ。
「あんた成瀬の向かいの」
 言ったのはお喋り女の矢部。
 待て何だその言い方。わざわざ改めて口に出さなくても知ってるクセに。
 アニメの説明キャラじゃあるまいし。何かの当てつけか?
「だから何だよ……こいつ何かしたのか?」
 オレが訊くと答えは別の方向の男から。
「オメエラ分校の奴に無視すりゃいいとか言ってんじゃねぇぞ!」
「はぁ?」
 どこからそんな話が。
「とぼけんじゃねぇよ」
 とぼけるもナニも、ナニもしてないから言い返すネタがないだけ。
「悪い。マジで全っ然わっかんねんだけど。成瀬とオレってナニしたことになってんの?」
「ざけてんのか?」
 オレはそのクラスで一番やんちゃな大男に襟首掴まれ吊り上げられた。
「表へ出る話だったら成瀬は抜きで頼むぜ」
「待って」
 救いの女神は成瀬。
「待って。カッコ付けるような事じゃない。確かに私たち、先生に頼まれて古淵さんの所に行ってる。でも、そこでどんな話をしてるか、誰にも話していないし、私たちに尋ねてきた人も誰もいない。教えて。みんなは誰から何を聞いたの?」
 成瀬の声は教室に響き、張り詰めた雰囲気を変え、生徒達は皆互いの顔を見合わせ。
 その作業の後、みんなの目線は、教室の一点に収斂した。

つづく

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