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気付きもしないで【20】

「私は……矢部さんから」
 女子のひとりが〝一点〟の名を口にした。
 お喋り女矢部。
 でもオレはトサカに来るより疑問の方が先に立った。オレにせよ、成瀬にせよ、このオンナには一言もナニも言ってない。
 果たして当人。
「わ、私は……」
「彼女、その地区におばあちゃんがいるって言うからてっきり」
 教室中がざわつき始める。オレをぶら下げているやんちゃ大男も、オレをぶら下げたまま事態の推移を見ている。
「下ろせよ。根も葉もない話に踊らされてんじゃねーよ」
 オレはドサッと落とされた。
「矢部さん」
 成瀬が怖い。でも、矢部はオレのクラスの女。
 オレは成瀬を制して。
「おばあちゃんか誰だか知らないが、聞いたこと洗いざらい話してもらおうか。確かにオレ達古淵さんトコ行ってるよ。打ち解けてくれて、来週から通いたいって言ってるよ。なのにそれをぶち壊したい理由は何だ?」
「だって……」
 矢部は目を真っ赤にして小さく一言。そして鼻をすすって続けて。
「だって……あの子が……本校を怖がってるって……おばあちゃんから」
「いきなり見知らぬ所放り込まれるのは抵抗があるって言った。確かにね。でもそれは誰にでも多かれ少なかれ有ること。違うか。で?他におばあちゃんソースは何と?」
「声が聞こえて……町田君達の……『町田君達と喋るなら楽しい』って」
「彼女はオレ達の漫才面白がってただけだが。初対面に笑いでツカミ取っちゃいけないか?」
「本校の子は誰も手を出さないって……」
「駅の花に誰もイタズラしようとしないって話だな。彼女は彼女に関わるウワサを知っていた。だからオレ達は、それは誰かのゲスの勘ぐりで、本当はそんなこと思ってる奴は一人もいないと教えた。その証拠に彼女が交換している花を誰も触ろうとしないだろって聞かせた。それで彼女は本校の連中に対して安心したと言ってくれたわけだが」
「え?あの花って分校のその子が……」
 聞いてた女子の誰かが言った。

つづく

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