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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【26】

 ジョロウグモの巣で、大きなクモの周囲に小さなクモが何匹かいて、という光景を目にされた方は多いと思います。この小さいのがオスです。メスの食べ残しを頂戴しながら虎視眈々とメスとの逢瀬を狙います。……そしてクモには良くありますが、往々にしてメスに食べられます。
「クモはクモ……」
 ゆたか君は言い返そうとしたようですが、その表情が曇りました。
 よぎるフラッシュバック。
 ピアノ教室で女の子を突き飛ばそうとした記憶。
〈で、どうすりゃいいんだい英雄君〉
 オオジョロウグモの子はゆたか君の心理に気付かないかのように問いかけました。
〈呼び出して何も言わずダンマリはあんまりじゃないかい?まぁこの妖精さんからあらかた聞いたけどさ〉
「ようせい……」
 ゆたか君は今さらのように目を円くして私を見ました。
 この天国にいてゴマカシ否定でもないでしょう。
「です」
 背中の翅を広げてみせます。
「ああ、だからあんた背中に翅が……」
〈〝あんた〟は失礼じゃない?人間!〉
「うるせぇチビ」
〈チビにチビといわれても全然。踏みつぶせるようなのにトサカに来てどうすんのさ〉
 私は苦笑しました。どうにもこの爪に乗るような女の子の方が何枚も上手のようです。
 しかし、ゆたか君は更に言い返そうとはしません。
「妖精ってさ」
 瞳が揺らいで見えたのは気のせいでしょうか。私を見て何か訊きたげ。
「はい?」
「虫の味方。だよな。化身って言うか」
「そうだよ」
「虫を殺すヤツに仕返しをする……」
「私は君に何もしないよ。君を守って欲しいという声によって」
 私は先回りして言いました。彼は山ほど身に覚えがある。
 ゆたか君は私をまっすぐ見ました。
「それってさっき言ったオレのクモ達の……」
〈あんたに所有された仲間は可哀想だね〉
 ゆたか君の声を遮って小さなオオジョロウグモが言いました。
「お前つくづく嫌なヤツだな」
〈クモだからね。キライで結構、好かれて迷惑。それより用事早くしてくれない?〉
「ああ……」

つづく

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