ブリリアント・ハート【29】
彼女たちを含め5名ほどが乗り込む。そもそも定員乗車の観光バスに、立ち客が掴まれる手すりの類は少ないが、彼女達は母子連れの座る座席の手すりにどうにか掴まった。それでもまだ積み残しが出たが、彼らは混んだバスへの乗車を拒否した。
『出発します。揺れますのでご注意下さい』
運転手は言うと、ドアを閉め、バスを出した。この種のバス特有のふわふわとした乗り心地であり、揺れながら駅前広場のロータリーを回り、博覧会対応で整備された広い道へと出る。
バスが加速する。エンジン音に加えお喋りで中は喧噪。会場へ向かう興奮も手伝っているであろう、乗客達は饒舌だ。加えて観光バスには想定外の超満員であるせいか、エアコンの利きが甘く、車内は暑い。
立っている側にはしんどい状況。乗車15分と言われたが、その辺が限界であろう。しかし、5分ほどは好調に走ったものの、そこで突如ペースが落ちた。頭と頭の隙間から前方を見やると、渋滞している。
『お知らせします。検問のため渋滞しています。混雑しておりますところ申し訳ありませんが、ご辛抱願います』
車内に満ちる諦念のため息。ちなみに博覧会会場は高速道路と直結しており、インターチェンジへのアプローチも兼ねるこの道に検問設置は当然。
「大丈夫なの?」
あすかちゃんが小声で言った。検問の内容は王女某なのでしょう?というわけだ。
「大丈夫でしょう」
レムリアは答える。どう見ても見学客だけのこのバスを探すとは思えない。そういう予感もしない。
「一応、念のため」
あすかちゃんは自らのメガネを取ってレムリアに渡そうとした。
「あ、大丈夫。ていうか逆にそっちの方が知られてるから」
レムリアはウェストバッグのダテ眼鏡を見せた。
「もはやどっちでも一緒」
苦笑する。レムリアにはそれよりも時間の方が気に掛かる。5時までにホテルに戻れるか?ジェームズ=レムリア=ボンド!
しかしそのまま5分。更に5分。
(つづく)
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