気づきもしないで【21】
「そうだよ。まず役に立ちたいってね。で、オレが彼女に言って聞かせたことは間違ってるかい?」
オレは一同に尋ね。矢部の前に顔を突き出した。
「勝手に盗み聞きして勝手に決めつけてそればらまいて。お喋り詮索ウワサ好きってのは元々好きじゃなかったけどな。こうなると大っ嫌いだぜ。お前と、お前のばーちゃん。ぶん殴っていいか?」
矢部は泣き出した。ちなみに、盗み聞きばーちゃんは、若林のおじさんの言った、ヨメさんがお喋りのウワサ好き、当人であると考えて間違いないらしい。
「だって……」
矢部は何か言いたげのようだが堰切る涙が邪魔をする。
廊下の方が騒がしい。
覗いているのはオレのクラスの輩ども。
「おーい、タイキが矢部を泣かせてるぞ!」
人聞きの悪い。
「タイキ」
真面目な顔で俺を呼ぶ成瀬。
その背後に女子3人いてオイデオイデ。
矢部の傍らに向かう成瀬と入れ違いに、彼女らの方へ行ったら。
「庇わなくていいからね」
クールに一言。……泣かせておけってことだろうか。
「は?」
「悪口ばかり言うから。彼女。いいきみだよ」
「いっつもこっちのクラスにいるでしょ?そっちで嫌われてるから」
その言い様は悪し様。恐らく本人にも聞こえているだろう。
だが、廊下からも、オレのクラスの方からも、矢部を庇う反応はない。
……ザマミロの意か。
「それって公然の話?」
「案外みんな言ってるよ?知らなかった?」
「気付かなかった」
オレはため息付いて矢部を見た。
成瀬は見守るだけで慰めるとか手を出したりしない。
女同士のドロドロが結構根深いとか聞いたことはある。しかし正直な話オンナ同士の関係に思いをいたし気を揉む男っていないわけで。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私……私……」
しゃくり上げて声にならない。
孤立無援で泣きじゃくる女の子。
ぶすっ子じゃないんだが。イヤむしろウチのクラスでコイツと一番喋っていたのオレと違うか?
そんな状況、気付かなかったから。
(つづく)
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