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気付きもしないで【22】

「町田君の悪口だけは言わなかったからね。ショックなんでしょ」
 どこからかそんな声。
「わかったよ」
 オレはまず言った。
 矢部が真っ赤な目でオレを見る。
 とっちめてもいいのだが、それで女の子一人村八分になったとしたら。
 オレの脳裏で雪乃ちゃんの笑顔が曇る。
「矢部一人に責任おっかぶせるのは簡単だけどさ」
 オレはいつの間にか来ていて事態を見ていた、この2クラスの担任も含めて言った。
「言われるままに根も葉もないこと信じて、ウワサにしてたオレら全員にそれなりの責任があんじゃね?」

 月曜日。
 1輛こっきりのディーゼル列車がプラットホームへと入ってくる。
 窓際の彼女は、こちらに目をやり立ち上がろうとし、
 その目が、真ん丸に見開かれるのが、手に取るように見えた。
 列車のドアが開いた。
「いえーい!」
 オレ達は一斉に声を上げて拍手で迎えた。
 驚き見回す彼女。それは作戦が成功したという証明。彼女が見ているのは本校の2クラス全員の姿と、
 飾れるだけ飾った、鉢植えの花。
「あ、あの……」
「待ってたよ」
オレと成瀬は進み出て言った。
「これ……」
「花いっぱいで迎えましょう作戦。改めまして本校へようこそ。これが用意した最後の一鉢」
 オレは言い、後ろ手に持っていた鉢植えを彼女に渡した。
「ランタナ」
 彼女は言い当て、そっと笑った。
 ランタナ。花の姿と付き方はアジサイに似て。ただ咲く花は色とりどり。図鑑によればピンクからオレンジから、一つの茎からいろんな花が出てくる。そのためだろう、和名を〝七変化〟。ちなみに、オレから彼女に手渡したのは、ピンクと、黄色と、オレンジ。
「合意・協力」
 古淵さんは言い。
「確かな計画性」
 成瀬が付け加える。二人が言ったのは、当然、ランタナの花言葉。

次回・最終回

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