ブリリアント・ハート【33】
『今どこだい?』
「バスで会場に着いた」
『そうか。いや検問突破の不審車を追跡中と速報出たから。…でも注意な、その車、会場方向へと行ってるみたいだぞ』
“犯人”がいた!もちろん、別の犯罪である。しかし今の彼女たちには、少しの間だが、注意がそこに向く分好都合。ただ、警察屋さんが大挙してここに来るのは勘弁。
すなわち、追跡が続く間にここを離れるが吉。
「わかった。ありがとう」
電話を切る。
そして乗り場へ向け歩き出そうとする彼女たちを、老年の男性が呼び止める。ボランティアのガイドである。
「会場はそっちじゃないよ」
行く手を遮る。親切心からであろう。最も、ここまでバスで来てまたバスに乗るのは、確かに不自然。
と、後方からパトカーのサイレン大合奏。
その逃走車を追う警察であろう。本当にこちらに来るのか。
あすかちゃんが前に出た。
「いいんです。間違えて乗ってしまって…判らないからいっぺん会場引き返した方がいいかなって」
あすかちゃんはそのままバスセンター行きの乗り場を聞いた。
上手だ。レムリアは安堵と感心。
「そういうことかい。えーっと、じゃぁ案内しよう。こっちだ」
ガイド氏が歩き出す。乗り場は砂州のごとく細長く円弧を描いており、バスセンター行きはその先端に近いところから出発する。
パトカー軍団が急速に近づくのを聞き取る。振り向くと、丘陵斜面の広い道を駆け下りて来る幾つもの赤色灯。丘を越えたので、音が直接届くようになったのだ。追われるのは見るからに暴走車。
「新幹線間に合う?」
あすかちゃんは言った。
それはガイド氏に聞こえるように、わざとであるとレムリアは気付いた。
ガイド氏が時計を見、そして。
「…そりゃまずい。急いで!」
果たしてガイド氏が走り出す。待機するバス群の向こうに、まるで峠越えの山里のように、バスセンター行きのバスを見た時、バスは丁度発車しようとするところ。右方向へウィンカーを出し、排気ガスを噴いて…
しまった、とレムリアはパトカー群を一瞥して思う。万事休すか。
(つづく)
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