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2009年6月 6日 (土)

【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【30】

 次の変化に私は気付く。
「みんな、私の服の中へ」
〈はい〉
 クモ達がトガの中に潜り込んで程なく、風がピタリと収まりました。
 体が風の力を失い落ちて行きます。私は身体に絡んだ糸の隙間から翅を差し伸ばし、
 滑空して、
 私の身体から長く伸びる、幾重もの糸の束を、力一杯引きます。
 子どもさんを、人間の子どもさんを、私自身の翅の力で抱え飛んだことが過去に一度だけある。
「ゆたか君!」
 私は叫びました。言伝のみ?そんなこと気にしている事態じゃない。
 私の声は谺を伴い谷間に広がって行きます。
 しかし返事がない。
 ゆたか君からの返事はない。
 天国の誰すらも知らぬ谷底へ……
 いいえ。ただ、遠いだけ。
 私は信じて糸を引きました。
 そう。勇気ある者の勇気が報われない世界ではない。
 天国であるが故に。
 私は祈って糸をたぐりました。たぐりよせ、ゆるんだ分を口にくわえ、再びたぐり、口にくわえ。
 それは糸の長さを調整するそれこそクモの流儀。私は何もかも忘れ、ただ糸の伸びる先一点を見つめて。
〈妖精さん〉
 クモの子から声があり、私は作業を中断します。
 ふと見ると地面。
「あっ!」
 私は思わず声を出しましたが、土の上に叩き付けられ、という感じではありません。
 豪雨の後の腐葉土……それとも濡れたスポンジの中に、ドサッと落ちた。そんな感じでしょうか。
 どちらにせよ言えること。元の地面じゃない。
 対岸。

つづく

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