ブリリアント・ハート【32】
8
検問は拍子抜けするほどあっさり通過した。調査は運転手にのみなされ、しかも、“女の子を連れた不審者を見なかったか?”と訊かれただけだったからだ。それは東京の言う通り、バスの中など端から疑っていないことを意味する。一般乗用車がトランクの中まで調べられているのとはえらい違いだ。これはもちろん、“誘拐”が前提にあるためであるが、レムリアとしてはそうした乗用車の皆さんに対し少々胸が痛い。原因は自分だからだ。“犯人”なぞ絶対いないにしてもだ。
通過許可を示す長々としたホイッスル。警察官達も炎天下にご苦労さまである。
「お待たせしました」
放送があってバスが発車加速する。通過してしまえば、検問が一種のフィルターの役目を果たしているので道はガラガラ、後は早い。観覧車が見えて歓声が上がり、会場内を行き交うロープウェイのゴンドラが姿を見せ、そしてバスは発着場へと到着した。ぐるぐると導入路を走り、ボランティアのガイドが手招きする降車場へ停止する。
『到着です』
ドアが開いて降車が始まる。発着場は高台の上にあり、マイカー規制でバス輸送が重視された結果、そのスペースはかなり広い。中央に滞留している発車待ちのバスもかなりの台数だ。降りた人々はやや小走りに、そして笑顔で、高台の下へと伸びる長い下りエスカレータへと向かう。入場ゲートはその先に続く半地下構造の広場にある。
二人は降りると列から離れて立ち止まる。手を伸ばせば触れられるほどすぐ先に、会場の喧噪。そこは半年の間だけパラダイス。
でも、自分たちの目的は違う。バスセンター行きバス乗り場は…
「ねーちゃん、ありがとな」
先の男性が通りすがりに言った。
「ホント、どうもありがとうございました」
これは目の前の席にいたお母さん。手を引かれた男の子が手を振る。
「ばいば~い」
後ろにいた姉妹。母親が会釈。
レムリアは手を振って彼らを見送ると、乗り場の案内看板を見つけ、歩き出した。
電話が呼ぶ。東京から。再度立ち止まって受ける。
(つづく)
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