ブリリアント・ハート【30】
渋滞は続いている。車内の暑さも相当なもので、お喋りも引っ込んだ。祭りへ向かう楽しさが苛立ちへと変わりつつあるのが如実に判る。ああ皆さんごめんなさい。
後方で幼子が泣き出した。
不思議なもので、この手のぐずりは伝染する。
果たしてもう二人泣きだし、レムリア達の前に座る、4歳くらいだろうか、男の子も泣き出した。
「ママ~」
子どもの泣き声。
それは、進化の過程で、最も大人の関心を引き、自分を放っておけなくさせる音量と周波数分布に落ち着いた、と考えられる。
すなわち、どうにかして泣き止ませたい、と思いたくなるようなパターンであり、要するに苛立ちを加速させる。
車内の雰囲気が悪くなる。
男の子のお母さんも困った様子。オモチャかお菓子くらい持っていないのかと思うが。
ないなら自分が出すだけの話。
レムリアはウェストバッグをごそごそした。ちなみに、参加している慈善団体で子どもを相手にすることが多く、いつもなにがしかのお菓子は所持している。ウェットティッシュで手を拭いて…
「ぼく、見ててごらん」
男の子の顔の前に手のひらを出す。
握って、開くと、市販のビスケット1枚。
男の子が泣き止んだ。
鼻をぐずぐずさせながら手のひらのビスケットを見つめ、手を出そうとする。
「ちょっと待って」
レムリアは再び手を握る。
開くとビスケットは2枚。
「あら」
男の子が喜んでキャッキャと声を出し、母親がレムリアに微笑みを向ける。
ちなみに…これがまた不思議なのだが、子どもは他の子どもが笑っていると、強い関心を見せ、自分が泣いていることを忘れる。
後方から何事かと顔を出す姉妹あり。
手の届く距離である。レムリアはビスケットを1枚見せ、
「ワン、ツー、スリー」
指を鳴らすとその場で2枚。
姉妹は大喜び。
あすかちゃん、唖然。
周囲の視線を感じながら、レムリアはビスケットをそれぞれ子ども達に渡した。
「すいませんありがとうございます」
男の子の母親がぺこり。
(つづく)
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