« 【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【29】 | トップページ | 気づきもしないで【21】 »

ブリリアント・ハート【30】

 渋滞は続いている。車内の暑さも相当なもので、お喋りも引っ込んだ。祭りへ向かう楽しさが苛立ちへと変わりつつあるのが如実に判る。ああ皆さんごめんなさい。
 後方で幼子が泣き出した。
 不思議なもので、この手のぐずりは伝染する。
 果たしてもう二人泣きだし、レムリア達の前に座る、4歳くらいだろうか、男の子も泣き出した。
「ママ~」
 子どもの泣き声。
 それは、進化の過程で、最も大人の関心を引き、自分を放っておけなくさせる音量と周波数分布に落ち着いた、と考えられる。
 すなわち、どうにかして泣き止ませたい、と思いたくなるようなパターンであり、要するに苛立ちを加速させる。
 車内の雰囲気が悪くなる。
 男の子のお母さんも困った様子。オモチャかお菓子くらい持っていないのかと思うが。
 ないなら自分が出すだけの話。
 レムリアはウェストバッグをごそごそした。ちなみに、参加している慈善団体で子どもを相手にすることが多く、いつもなにがしかのお菓子は所持している。ウェットティッシュで手を拭いて…
「ぼく、見ててごらん」
 男の子の顔の前に手のひらを出す。
 握って、開くと、市販のビスケット1枚。
 男の子が泣き止んだ。
 鼻をぐずぐずさせながら手のひらのビスケットを見つめ、手を出そうとする。
「ちょっと待って」
 レムリアは再び手を握る。
 開くとビスケットは2枚。
「あら」
 男の子が喜んでキャッキャと声を出し、母親がレムリアに微笑みを向ける。
 ちなみに…これがまた不思議なのだが、子どもは他の子どもが笑っていると、強い関心を見せ、自分が泣いていることを忘れる。
 後方から何事かと顔を出す姉妹あり。
 手の届く距離である。レムリアはビスケットを1枚見せ、
「ワン、ツー、スリー」
 指を鳴らすとその場で2枚。
 姉妹は大喜び。
 あすかちゃん、唖然。
 周囲の視線を感じながら、レムリアはビスケットをそれぞれ子ども達に渡した。
「すいませんありがとうございます」
 男の子の母親がぺこり。

つづく

|

« 【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【29】 | トップページ | 気づきもしないで【21】 »

小説」カテゴリの記事

小説・魔法少女レムリアシリーズ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ブリリアント・ハート【30】:

« 【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【29】 | トップページ | 気づきもしないで【21】 »