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めーるぼっくす

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2009年7月

ブリリアント・ハート【38】

 コース取りとしては、駅を通った方が早いは早い。しかし、東京の言う通りであれば、避けた方が無難であろう。
「だったら」
 あすかちゃんの提案でデパートの地下へ出、系列の私鉄駅改札前を横切り、ホテルの1階へ顔を出す。の方を選定する。やや複雑であるが、追っ手と遭遇する率は低い。
 …彼女が来てくれて助かった。
 バスから降りることにする。相談している間に他の客が通路に並び終えたため、二人は列のしんがり。
 すると。
「ああ、君たち」
 運転手が立ち上がりながら呼び止めた。
 驚かないはずがない。予想外もいいとこ。
 自分に言い聞かせる。冷静に、冷静に。
「はい?」
 応じ、外に目をやる。ドア前プラットホーム上に交代運転士がおり、降車した客を駅方面へ案内中。客の殆どはその方向。
 と、その行く手から走ってくる制服姿2人前。
 警官。
「みなさ~ん、少々よろしいでしょうか~」
 言いながら走ってくる。これは先頭切って降りたらアウトだったということか?
 幸運、とはいえのんびりもしていられない。視界の向こうの状況を捉えながら、運転手のセリフを待つ。あの、急いでいるんですが…
「ああ、いやね。君たちを待ったおかげでトラブルに巻き込まれずに済んだみたいだと。盗難車が逃げていたらしい」
 運転手は室内ミラー脇に掲示された自分の名札を外し、椅子の座布団を取り外しながら、言った。
 レムリアは胸をなで下ろす。そのことか。
「そうですか?」
「ああ、君たちは幸運の女神様だよ。ありがとね」
 笑顔を見せる運転士と共にバスを降りる。レムリアはそれが、乗る際に自分たちに不機嫌顔を見せた“詫び”を兼ねている、と気付いた。
「いいえ、こちらこそ待って頂いてありがとうございました…」
 バスを降り、頭を下げる。視界向こうでは警官が乗客をチェック中。こちらを見るが、運転士と話しているせいもあろう、疑いの意識は感じられない。これも幸運?
「どこへ?」

つづく

【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【37】

 でもそんなの大人向けの科学雑誌でやっと出てくる話。
 オトナの皆さんが〝子どもにさせたいこと〟と、子ども達が興味を持つものは得てして違う。
 そして多くの場合、子ども達の興味の対象を大人達は理解しない。
「だから温暖化が本当なら怖いんだ」
 ゆたか君は言葉を繋ぎました。
「酸素濃度の違いとかありかもだけど、そんな大きなクモがもう一度地上に現れたら、人類の天敵になりうる。人類のことだから爆弾とか言い出すだろうだけど、原子爆弾でも追いつかないような途方もない火山噴火や、噴火で毒ガスが充満した世界を彼らは生き延びてきた」
「いいことを教えてあげようか」
 アラクネは編む手を休めず、別の手で虫をつまんで口に運びお茶を一口。
「気ぜわしいオバサンでごめんなさいよ。日本から来たんだよね」
「うん……ってあんた日本語うまいなぁ」
「ここにいると言葉は魔法でね。知識豊富な少年よ、日本で有毒とされる虫、昆虫と節足動物、挙げてみな」
「陸生?」
「ああ」
「じゃぁまずサソリ、ムカデ、カバキコマチグモ、刺すハチ。ドクガとかその辺の毒毛。あと止まられるとかぶれを起こすのいたよな。ハネカクシだっけ」
「アリガタハネカクシ(蟻形翅隠し)だね。有毒というより人間さんの皮膚との相性問題に近いと思うけど」
 これは私。ちなみに、カバキコマチグモはススキなどの長い葉を巻いて巣を作る徘徊性のクモで、唯一〝有毒〟という言葉が使える日本産のクモです。子グモが親を食べて育つという特異な習性を持ちます。
 そう、〝日本の毒グモ〟は事実上この種だけです。もちろんクモ一般に狩猟用の毒を持ちますが、人間さんに向かって行使することはまずありません。噛むことはありますが、威嚇だけです。ジョロウグモ、オニグモ、コガネグモは当然のこと、大型さ故に知られるアシダカグモですら。
「他には?」
 アラクネは聞きました。私もお茶をもらいます。ジャスミンティーです。
「えーっと。あ、ハブとマムシとヤマカガシと」

つづく

ブリリアント・ハート【37】


 
 シャトルバスは市街地の道こそやや混んだが、検問等に掛かることはなく、駅前バスセンターへの登坂スロープを目前に信号待ち。
『ご利用ありがとうございました…』
 運転手が放送し、バスが動き出す。乗客達が準備を開始。
 そこで電話。東京。あまりいい予感はしない。レムリアは再びカーテンの陰。
「…何?」
 言って生唾を飲み込む。
『今どこだい』
「あと1、2分ってとこ」
 その回答に東京は黙った。レムリアは焦りを感じた。その沈黙は手遅れと呼ばれる諦めの意思表示?
「…やばい?」
 返事を急くように尋ねる。東京は一回う~んと唸って。
『…かも判らん。手品が上手でウェストポーチを身につけた良く似た娘を、会場行きのバスで見かけたと』
 バスが交差点を横切り、カーブしているスロープを登りに掛かる。その車窓、今しがた横切った交差点を、パトカーがサイレン鳴らして駅へ急行。
 ビルの中に組み込まれた立体ターミナルにバスが乗り入れる。薄暗いコンクリートの空間に反響するエンジン音。
『警察は…』
 東京が言いかけたそこで電話が切れてしまう。コンクリート構造物に入り、780キロ彼方からの衛星電波が遮られたのである。
 心臓がドキドキ言い始める。バスの速度が落ち、他の乗客達が降りる準備を始める。
 と、前方に別の乗り場からのバスがニュッと顔を出し、シャトルバスは一旦止まる。
 降車場とおぼしき場所では、運転士と同じ制服の男性がこちらを見、手招きしている。手に座布団抱えているあたり交代の運転手なのだろう。そこまでバス数台分の距離だ。
 じれったいと思う。すぐそこじゃん早く着いてよ。
 着くバス出るバス交錯し、バスはなかなか前に行かない。
 降車場すぐ手前からバスが出発し、ようやく前方に進路が出来る。バスは最後の一ふかしとばかり加速し、降車場に停車する。
『到着です。JR方面は前方の…』
 ドアが開いて客が降り始める。
 降車客は2方向に進路を取れる。駅コンコースか、バスの系列会社の駅前デパートか。

つづく

【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【36】

 空っぽに見えたガラスのポット。しかしテーブルのカップを並べて傾けたら、中から紅茶が出てきました。
 この種の魔法はこの世界の住人の流儀です。私がちょっと驚いた顔をしたら。
「つまり私は人間には戻れないってことさ。悪いけど仕事させてもらうよ」
 アラクネは言うと、テーブルの前に座り、ゆたか君の持ってきた糸玉から糸を引き、手足を駆使して凄い勢いで織物を始めました。
「戻れないって?」
 溜息混じりの悔恨の言に、ゆたか君は心配そう。
「古い話さ。知らないなら訊かないこった。それよりお前さんの話はどしたい。まともな人間は3623年ぶりでさ。食べたいほどウズウズしてんだ」
 アラクネは牙を見せてニヤッと笑うと、テーブル中央に手の一本を突っ込み、中から何かつまみ出して口にしました。
 くちゃくちゃくちゃ、ぺっ。
 吐き出して屋外に転がったそれは昆虫の殻。
 この〝遺骸の大地〟……まさか。
「ああ、大昔日本は暖かかったっていうから、大型のクモがいても別に変じゃないよなって。例えばカブトガニってクモに近いって言われててデカイだろ。あれは今でも日本に住んでる。海にカブトガニがいて陸上にはクモがいた。変じゃないと思う」
「化石なんかは出たのかい?」
「ないよ。ただ、化石で残る固い部分もないし。化石がないからいなかったっていうのは証拠にはならない。それに、日本では火山噴火が多いせいか、人間や他の動物の化石自体少ない。ただ、ひょっとするとでかすぎてアノマロカリスみたいに何かの部分だって思われてるだけかも知れない」
 等々と喋る彼の口調は子どもの物言いではありませんでした。
 ピアノを弾く彼とは大きなギャップを私は感じました。虐げられる自分と、嫌われるクモに共感を覚え、興味を持って飼うようになった。でも、彼はそれ以上に自ら進んで、そこまで知った。
 自ら進む。これが何より大事ではないでしょうか。ちなみに、アノマロカリスはカンブリア紀の大型肉食生物で、当初カマ状の腕、口周りの化石が見つかったのですが、それぞれ別の生物と考えられていた、という経緯があります。

つづく

ブリリアント・ハート【36】

 自分が意識していた自分と、今の自分とにギャップがあり、頭の中の整理が付かない…自分の認識の変更が即座に出来ないのである。ただ、これらは自分にとってポジティブで有利な変化であるから、脳の中の認識変更作業は積極的かつ短時間で完了する。そしてその完了の合図は、“変わったのだ”という認識として、嵐明けの澄み渡った空のように訪れ、当人を成長過程における新たなステージに立たせる。
 電話が来る。東京。バスの中だが事情が事情につき受ける。マナー違反2回目。
「はい」
 カーテンに隠れてコソコソ。
『情報を少し。まず、タクシーの運転手は無罪放免。野球の試合を思い出して急発進させたんだと。カーチェイスは警察から逃げたんでなくて、“六甲颪”をガンガン鳴らしていて気付かなかったと』
 東京が少し笑って言う。レムリアも笑いながら頷く。高坂運転手…大変世話になったと思う。できればもう一度会いに行ってお礼を言いたい。
『それと』
「はい」
『検問突破。こっちは盗難車で無関係と判明。警察は引き続き捜索中。今のところの警察見解は、動くのを控え、情勢をどこかで見ているのではないか。夜になって動くつもりではないかと。大きな国道、高速道路インターチェンジ、JRの主要駅に重点を絞って警戒中。こんなところだ。まぁバスセンターまでは行き着けるだろう。関門はそこからホテルだな。ラスト200メートルをいかに白々しく乗り切るか。ああちょっと待った』
「え…」
 レムリアは背筋がサッと冷えるのを感じた。新しい情報を彼がキャッチしたのは間違いない。
「なに?」
『今何着てる?』
「ブルーのスカートに白いカーディガン」
『脱げ』
「…は」
 そのセリフは、真意は判っているが、なまじ成人男性に言われただけにちょっとドキッとした、とだけは書いておこうか。
「目撃?」
『そう。可能であれば変えるべし。似たような女の子を博覧会行きバス乗り場で見かけた証言があるらしい』
「わかった。そうする。ありがとう」
 レムリアは言うと、電話を切った。
 スカートとカーディガンを脱衣に掛かる。

つづく

【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【35】

「大昔大きなクモがいて人間に殺された」
 彼は答えました。
 私は翅の羽ばたきが止まって落ちそうになりました。それはちょっと。ええ絶対に多分。
 ……いや私もギリシャ神話に起源を求められる種族なので詳しくは知りませんが。
 違うことだけは確かなような。
「そんな話かい?妖精さん……って、アンタもニンフ系だったっけねぇ」
 私が答えに窮していると。
「先生は違うって言ったよ。縄文人って人たちが手足が長くてクモみたいだったからだって。でも、そっちの方が間違いだよ」
 彼の発言に私は自分でも判るほど目を剥きました。
 だってそれは〝定説〟に対して小学生が異を唱えてるということ。
 ただ、突拍子もない子どもの妄想……という感じはしません。何故でしょう。
「ご高説賜りましょうかね。ほれ、アレが私の家だよ」
 行く手に白い〝建物〟が見えてきます。違います。
〝人家の形に作られた巣〟
 近づいて圧倒されます。サイズは決して大きくないのですが、糸だけで全てが編み上げられ、緻密そのものです。
「こんなナリだけどさ、困ったことに人間の生活が必要らしいんだよ」
 中に入れてくれます。これも糸でしょう、テーブルに茶器と、
 奥の方には出来上がった装束がズラリとぶら下がっています。
「あの……これ……」
 ゆたか君が指さす糸玉。
「ああ、その辺に置いておいてくれ。子ども達好きなように。アンタらにはお茶でも出すかね。お茶だけは認めてくれてさ。ああ、そっちのソファに座っておくれ」
 クモの子達にとっては糸の城です。みんな喜んで部屋の各所に散らばって行きます。
「届け物の上で粗相だけはやめてくれよ」
 アラクネは言うと、壁から天井へ登って、天井裏からガラスのポットを出してきました。
「そうか、壁も天井も普通に使えるんだ。宇宙ステーションみたいだ」
 ゆたか君の感想にアラクネは大笑い。
「いちいち面白い子だね。さてお説を伺おうかい。土蜘蛛は本当に大グモのことだって?」

つづく

気付きもしないで【目次】

あらすじ

古びて荒んだ駅の片隅に鉢植えの花。
ちょくちょく変えられていることに気付いたオレ。
そこは、無人になった駅で、ただ一カ所、「生きていた」場所。
その花がしおれているのに気付いた朝。
オレは、足を止めた。

【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
【13】【14】【15】【16】【17】【18】【19】【20】【21】【22】【23・完結】

ブリリアント・ハート【35】

「でもうらやましい。何でも出来て」
 あすかちゃんは言った。その目には憧れの色がある。
「そうでもないよ。だからって何でもやっていいってわけじゃないし。現に質問ひとつに答えるのに大冒険」
 そのセリフにあすかちゃんの表情が曇った。
「…ごめん私が」
「ああそんな顔しないで。あなたのせいじゃない。私の趣味。たまには好き放題やらせろっての。それに、
…表面だけ姫ひめ慇懃無礼な大人達からかって煙に巻くのは大変面白うございますし」
 レムリアは後ろ半分囁き声で言った。
「…確かに」
 あすかちゃんが同意し、二人して小さく笑う。
 自分たちに大人達が振り回されキリキリ舞いしている。普段、子どもをコドモとして捉え見下し、偉そうにしている彼らのあわてふためきぶりは、滑稽でないと言ったらウソになる。
「でも」
 と、あすかちゃん。
「ということは、普段は、好き放題じゃない、んだよね」
 レムリアは頷く。
「まぁ、そうね。制約は多いかも知れないね。私が何かするとコッカのコケンというヤツに直結するから。恥掻くのは国と国民。これは重荷」
 あすかちゃんがため息をつく。
「難しいなぁ…。それだけいろんなことできるのに。神様って意地悪なのかな」
「いたら文句の一つも付けたいとは思うね。私は子どもらしくありたい」
「私はあなたみたいに素敵で積極的になりたい」
 そのセリフに、レムリアは小さく笑った。
 もう充分積極的。頃合いだろう。変化に気付かせて良い。
「そのなりたいオテンバと一緒になって冒険してるのはどこの誰?同じ事出来ているのはどちらのお嬢様?おかしいなぁ、あすかちゃんは引っ込み思案だと聞いたけど」
 そのセリフに、あすかちゃんは身体をびくりと震わせ、目を見開いた。
「え…」
「そう、今のあなたはすごく輝いている…。やればできるんだよ。私をって言う責任感があなたの底力を引き出した」
 この指摘にあすかちゃんは言葉がない。

つづく

【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【34】

 ですから。
「バケモノだって言わないのかい?」
 ニヤッと笑ったイメージ。表情を作ったのは額まで含めた左右の耳朶の間に並ぶ8つの目、大きく裂け、牙を持った口。
 髪の毛は乱れ縮れ、大きく広がり、長く垂れています。
「ゲームででも見かけたかい。張り合いがないね」
「あんた、〝土蜘蛛〟かい?」
 アラクネが私たちを糸の網で包み込もうとした時、ゆたか君がそんなことを言いました。
 ツチグモ。日本の神話や後の英雄譚に登場するクモの怪物です。準えて、でしょう、現生の地面徘徊性の大型クモ〝タランチュラ〟の和名として〝オオツチグモ〟と付けられています。コバルトブルーも分類上はオオツチグモ。
「これは珍しい物言いを聞いたよ」
 アラクネは8つの目を一様に大きく開いて、驚きの表情。
 糸をぐるぐる巻いてカゴを作ると、中にゆたか君を入れてしまい、するすると巻き上げます。
 牙を見せて8つの目でじろり。
 わざと怖がらせている感じ。
「本当に私が怖くないのかい」
「翅のねーちゃん昆虫の化身だろ。あんたはクモの化身だ」
 アラクネは耳まで裂けた口を開いてニヤリと笑いました。
 しかしゆたか君は本当に平気なようです。
「ぶ、ぶすオンナだとは思うけどさ」
 これにアラクネは毒気を抜かれたようにアハハと大笑い。
「気に入ったよ。妖精さん、あんたたちを私の家に招待していいかい。小さい子達もおいで。よく頑張ってこの人達を助けた」
 アラクネはそう言うと、私が何か答える前に、ゆたか君を入れた糸篭をぶら下げ、歩き出しました。
 8本の手足が〝遺骸の大地〟をかなりの速さで進んで行きます。彼女は根本的に人間のままですから、ゆたか君以上に体重があるはずです。でも、その重さが8本の手足で分散されているため、潜り込まずに済んでいるのでしょう。
「坊主、お前は土蜘蛛の話をどこまで知ってるんだい?」
 アラクネは歩きながらゆたか君に尋ねました。
 ギリシャ神話の住人が日本の伝承について訊くのは不思議な感じ。

つづく

ブリリアント・ハート【34】

「おーい待ってくれ!」
 ガイド氏が声を張り上げた。
 その声が届いたのだろう。バス停にいた別のガイドが、発車せんとするバスに向かって何事か叫ぶ。
 バスがガクンと停止。
 バス停のガイドが二人を見つけて手招き。
「ありがとうございます!」
 二人はガイド氏に頭を下げ、走った。
 バス車中からの視線を感じながら乗り場に駆け込む。
「すいませんでした」
「いいよ、また来てね」
 笑顔で言うバス停ガイド氏に、ついでやや不機嫌な運転士に謝りながら、バスに乗り込む。すると丁度、フロントガラスの向こうで大捕物。
 会場バスターミナルに、黒いフィルムで目隠しされた外国車が乱入しようとする。
『発車少々お待ち下さい』
 運転手が放送、落ち着くまで待とうというのだ。バスの進路は捕り物の方向であり、そのまま走らせると、乗客が危険に直面する可能性も否定できないからである。
 滞留していたバスが数台動く。外国車はジグザグ運転し、植え込みに入り込むなどして逃げ回る。その行く手を巨体が塞ぎ、袋小路を形成。
 ゴツンと音がして外国車が止まる。いずれかのバスにぶつかったのだろう、即座にパトカーが周辺を包囲し、退路を断つ。
 捕り物の舞台はターミナル内に移動し、ジ・エンド。
『発車します』
 大勢が決まったところでバスが動き出す。さぁ、あとは駅まで一直線。
 落ち着いた気持ちで二人は座席に腰を下ろす。ちなみに、夕刻には早い時間の出発であり、空席も見受けられる乗車率。
「ふぅ」
 期せずして同時にため息。
「飲み物買えば良かったね」
 レムリアは言った。
「出せないの?」
 あすかちゃんは言った。それは手品を魔法と思いこんだ幼女の目でありコメント。
 レムリアは笑った。
「あれは手品。モノが手元にないと」
「え?手品なの?なんだ。余りにも鮮やかだから魔法でも使ったかと思った」
「あはは」
 はぐらかす。うそつきに胸が痛い。でも、こればかりは容易に口に出来ない。ごめん。

つづく

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