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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【35】

「大昔大きなクモがいて人間に殺された」
 彼は答えました。
 私は翅の羽ばたきが止まって落ちそうになりました。それはちょっと。ええ絶対に多分。
 ……いや私もギリシャ神話に起源を求められる種族なので詳しくは知りませんが。
 違うことだけは確かなような。
「そんな話かい?妖精さん……って、アンタもニンフ系だったっけねぇ」
 私が答えに窮していると。
「先生は違うって言ったよ。縄文人って人たちが手足が長くてクモみたいだったからだって。でも、そっちの方が間違いだよ」
 彼の発言に私は自分でも判るほど目を剥きました。
 だってそれは〝定説〟に対して小学生が異を唱えてるということ。
 ただ、突拍子もない子どもの妄想……という感じはしません。何故でしょう。
「ご高説賜りましょうかね。ほれ、アレが私の家だよ」
 行く手に白い〝建物〟が見えてきます。違います。
〝人家の形に作られた巣〟
 近づいて圧倒されます。サイズは決して大きくないのですが、糸だけで全てが編み上げられ、緻密そのものです。
「こんなナリだけどさ、困ったことに人間の生活が必要らしいんだよ」
 中に入れてくれます。これも糸でしょう、テーブルに茶器と、
 奥の方には出来上がった装束がズラリとぶら下がっています。
「あの……これ……」
 ゆたか君が指さす糸玉。
「ああ、その辺に置いておいてくれ。子ども達好きなように。アンタらにはお茶でも出すかね。お茶だけは認めてくれてさ。ああ、そっちのソファに座っておくれ」
 クモの子達にとっては糸の城です。みんな喜んで部屋の各所に散らばって行きます。
「届け物の上で粗相だけはやめてくれよ」
 アラクネは言うと、壁から天井へ登って、天井裏からガラスのポットを出してきました。
「そうか、壁も天井も普通に使えるんだ。宇宙ステーションみたいだ」
 ゆたか君の感想にアラクネは大笑い。
「いちいち面白い子だね。さてお説を伺おうかい。土蜘蛛は本当に大グモのことだって?」

つづく

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