四つ葉に託して【愛情】
意識していたわけじゃない。
むしろオトコみたいなオンナで、友達感覚。
お前は、二人残って卒論を作っていた研究室で、突然訊いてきた。
「ねぇ、四つ葉のクローバーって見つけたことある?」
おかっぱの髪型。いつでも真剣さをたたえた大きな目。
「確率1万分の1じゃなかったか?」
「夢もロマンもカケラもないオトコだね」
「あるよ」
そこで言ったら、お前のひそめていた眉は、驚きで弧を描いた。
「えっ…」
自分から尋ねたくせに。
でもすぐに笑顔になって。
「それで、何かいいことあった?」
「ねえよ」
自分でも判るぶっきらぼう。フラッシュバックする二つのツメクサ。
するとお前は、自分自身のことのように、しょげた表情を見せた。
「そう…」
明るさが身上のお前にしては珍しくしおらしい。
「何?誰かにあげようっての?いいんじゃね?一般にラッキーアイテムだし。嫌いだってヤツはいないと思うよ」
「あんたも?」
「えっ…」
今度は僕が口ごもる。
「…ツメクサに恨みはないよ。頼った、信じたオレがバカだっただけさ。オレはオレ、気にせずプレゼントすりゃいいって。テーブルの上でちょこんと4枚広げてるの可愛いもんだよ」
オレはパソコン作業に戻った。
背後にお前のコロンの香り。
「はい」
差し出された小さな鉢植え。
花咲いたツメクサ。葉っぱは四つ葉。
「私から、あなたへ」
声と共に鉢が震える。視線を外した目元に涙が粒つく。
「これを。オレに?」
「心臓バクバクなんだからね。…花言葉知ってる?」
「私を…」
「言うな!すっごい恥ずかしいんだから!初めてだから、初めてだから、ストレートに言えないんだよ」
まるで少女のように。
オトコみたいなオンナで、友達感覚。
意識していたわけじゃない。
しかも。
「私…嫌い?」
「そうじゃない。ただオレ、卒業後留学するからさ」
「え…」
受け取って消えることなんて出来なかった。手に触れることなく行き過ぎた、3枚目。
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