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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【38】

「それはヘビだろう。でもヘビを入れてもその程度。違うかい」
 アラクネはニヤリと笑いました。
 言われれば確かに日本という土地に毒のある生き物は少ない気がします。
 でも。
「どういう意味なんですか?」
 私は思わず訊きました。
「クモに対する敬意を感じる。だけでなく、日本の虫たちは愛されている。昆虫の大家ファーブルは故郷じゃ変人扱いだってね。何で毒虫が毒を持つかって考えたことがあるかい?」
 アラクネはゆたか君に問いかけました。
 不思議な時間を過ごしていることを私は意識します。人間であるゆたか君と、元より異世界の住人である私と、そのどちらでもあるアラクネと。
 同一の空間を共有している。
 その状況でこの問い。まるでアラクネは千載一遇と捉えているよう。
 彼女は何か伝えたいのでしょうか。
 それとも知りたいのでしょうか。
 急いでいる。
 焦っている。
「そ、そりゃ身を守るためだろ」
 ゆたか君は答えました。実に当然な回答です。
 すると。
「じゃぁ他と同じくらい毒を持つものがいてもいいだろ?少ないと思わないかい?」
「わかんないよ」
 ゆたか君は困惑して答え、
「あ、でも」
「でも、何だい?」
「必要なかった、ってのは考えられる」
 彼の言葉にハッとしたのは私の方でした。
 毒が身を守るために備わる物であるなら、
 攻撃されない生き物は毒で武装する必要がない。
「日本人は生き物たちと上手に折り合って生きてきた。だから、生き物たちは毒を捨て去った」
 導き出される結論をゆたか君は言葉にしました。
 アラクネは安心したように8つの目を穏和にしました。
 もちろん、そんなの学者も学会も相手にはしないでしょう。
 ただ、虫たちが子ども達の友達であり続けたことは事実。
「妖精さん」
 アラクネは織る手を止めました。
「はい」
「悲しみの風吹く谷の 風を呼ぶのは悲しい思い 悲しみの風は命を惜しみ その故に天へと戻す 谷の主は悲しき主 誰も主を求めぬ悲しき。ってね」
 アラクネは歌うように言いました。

つづく

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