【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【39】
歌の通りなら悲しき主はアラクネということになりますが、何て寂しい歌なのでしょうか。
「私の仕事はね。ここで糸を紡ぐこと。風で上がってきた虫の命を食ってゼロに返すこと。そう、この死体の山は全部私が食ったモノさ」
アラクネは言いました。
自虐的な告白に聞こえたのかも知れません。
「そんな風に言うなよ」
ゆたか君が言いました。
「クモが虫食って何がいけない」
「ありがとね」
アラクネは言って、8つの瞼を伏せるように閉じました。
「温暖化だってね」
突然話題を変えます。
でも、それは最初にゆたか君が言ったこと。
「うん」
「足下の命を顧みなくなると、足下から忍び寄る命の変化に気付かない。言ってる意味が判るかい?」
アラクネは8つの目を見開いてゆたか君を見ました。
すなわちそれは彼女の核心。確信の核心。
温暖化で生き物の分布が変わる。それは最前言われていること。
ある生き物はいなくなり、別の生き物が住み着くようになる。
でも、それだけじゃない。
虫たちの分布に〝人間さんのそばにいる〟ことが関係しているなら。
人間さんのそばにいるから、毒を持つ必要がなかったならば。
人が虫を締め出してしまえば、虫を遠ざけてしまえば。
彼らの生きる場所はない。
対して。
〝毒虫〟は愛されるために生まれた虫ではない。
ひたすらな防御能力を進化させた結果。
いつの間にかいなくなる。
いつの間にかそばにいる。
気が付けば毒虫だらけ。
「セアカゴケグモ」
私はそんな毒虫の例を挙げました。
ゴケグモ。後家蜘蛛の意味で、交尾後メスがオスを食べて〝後家〟になることに由来します。但し本来日本にはいません。日本以外で分布した毒グモです。世界一の猛毒とされるクロゴケグモを含んだ一族です。セアカゴケグモは〝背中が赤い〟ゴケグモ。の意味。 実は、同じ仲間が日本にもいます。玄関先にボロボロの網を張る、小さな丸っこいクモを見たことのある方も多いでしょう。オオヒメグモです。名前の通り姫蜘蛛です。どちらもヒメグモ科のクモです。
(つづく)
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