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桜井優子失踪事件【3】

【序3】
 
 田島綾(たじまあや)という。甘いもの大好きで反映した体型。隣のクラスだが文芸部の活動仲間。
「体調悪い?」
「違う。ちょっと悩んでる」
「…何か感じたんだ」
 理絵子は首を左右に振る。能力のことは学友たちには秘密にしていたが、先に事件があって解決に用い、露見した。田島綾の言葉は、基づく問いかけ。
 ただ、〝その場〟を見知った彼達は、自分の力を口外しないと言ってくれた。
 〝誰かを守るための力〟であると。テレビのような見せ物扱いは何か違うと。
「感じなくなった、というのが正確かな?」
「エスパーなくなっちゃった?」
 友の高い声に周囲の目線が集まる。〝うわさ〟の伝搬は承知している。
「あ、ごめん」
「いいよ。そっちは問題ないんだ。ただ違和感がある。いつもあるものがなくなった、みたいな」
 理絵子は慌てるでなく淡々と答えた。周囲の好奇より不明の悩みの方が気に掛かる。
「ふーん。良く判らないけど…。あんたがそう言うなら相当なもんだと思う。でもね」
 田島綾はまじめくさって前置きして、
「一人で悩むとハゲるぜ。悩むときは一人より二人だ。一緒に悩み考え青春を謳歌しよう我が友よ。その調べではだめなのだ~」
 唐突に陽気になって言うと、理絵子の背中に回り、ぐいぐい押して歩き出す。ハミングするのはなぜかベートーベン第九冒頭。
「ちょ…綾…」
 こうやって、無茶苦茶な方法で気を紛らわせてくれるのが、あなたのやり方なのかもね。
 校門をくぐり、昇降口で上履きに履き替え、推進機関車綾と分かれ、職員室へ向かう。
「今日の文芸部は白状コーナーだから」
 田島綾は念押しして、自分の教室へ向かった。
 ひとり階段を上って職員室。出席簿を取りに行き、連絡事項を聞いてくる。毎朝のこと。
「おはようございます」
 引き戸を開いて感じる目線。〝事件〟の結果、自分の力を知るに至った教員が何人かいる。同様にウワサが伝搬したのだと力駆使せずとも容易に判る。
 羨望の対象として書かれる超能力者だが、実際そうなった側の状況はこんなもんだ。〝異常者〟扱いであり、忌避の対象。
 あ、新年の挨拶を忘れ。
 まぁいいか。
 担任代行の女先生は不在。連絡事項があるならホームルームで言ってくれるだろう。
「失礼しました」
 取るもの取って教室へ行く。ドア開けて、笑顔と挨拶、あけおめことよろ……。

つづく

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