桜井優子失踪事件【2】
【序2】
「まぁ、悩むときは一人より二人だ。でもオレの出る幕じゃなさそうだけどな」
父親は軽く言った。その言葉の軽さの故か、理絵子も少し気分が軽くなった。示唆的であるなら、必ずまた何か来るはず。
「いや。父さんの言う通りだよ。多分何か私に関係があること。家族でなければ学校でしょう。行ってくるよ」
理絵子は笑みを浮かべて言った。彼女は凛とした印象を見る者に与える、古風な雰囲気を残した娘であるが、今朝は、瞳に浮かべた憂いが輝きをスポイルしている。ただ、セーラー服をまとった姿は清楚そのものだ。コートに腕を通し、マフラーを巻く。携帯電話はスカートのポケット。
学級委員。
「行ってきます」
「氷で転ぶな。見えるぞ」
「スパッツ履いてるもん」
正月明け、3学期初日。
松の内であり、玄関先に飾りをつけてはいるが、父親が何ら勤務形態に変化が無いせいか、正月という印象は薄い。
丘陵斜面の住宅地をようやく顔を出した弱い日差しが暖め始める。公園の冬姿をした木の陰では霜柱が伸び、電線のスズメが鳴きもせず身を膨らませている。昨日の木枯らしこそ収まったが、わずかな気流が肌に痛い。
気がつけば霜柱を見るのは何年ぶり、ではなかろうか。温暖化と耳タコ状態だったせいか、少しの冷え込みでも心底寒い。都内多摩地区だが、「お前が生まれる前には、洗濯物を干したら即座に凍ることもあった」と母親から聞いたことがある。それでも、その頃に比べれば、大したことないのだろう。
学校に近づくにつれ、制服の姿が目につき始める。道ばたには、そこここに首からプレートを下げた大人が立ち、道行く生徒に声をかける。
「おはよう理絵ちゃん。あけましておめでとう」
「おめでとうございます」
不審者監視である。家族に通学者がいるといないとにかかわらず、ご近所有志による持ち回り当番。
「お寒い中ご苦労様です」
「いいってことよ。安全第一」
おばあちゃんが歯のない口で快活に笑う。
いつもの朝。冬の光景。新学期というちょっぴり新鮮。
いつも通りだが、何か違うこの感じ。
「りえぼーあけおめことよろおはさむ…どうした?」
果たして親しい友人は一瞥しただけでそう問うてきた。
(つづく)
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