【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【41】
ゆたか君の言葉が正解でした。
手。人の手。
それは見る間に大きくなってきました。確かに手です。巨大な手が天から降りて来ます。
まるで不躾で、闇雲に、何かを鷲掴みにするように。
「ボケッと見てる場合じゃないよ」
アラクネは言いました。その通り、私たちはこの少年と子グモ達を守る義務がある。
「クモ達は私の所へ。君は妖精さんの方へ」
子グモ達が糸引いてアラクネの元へぴょんぴょん跳びしがみつき、私はゆたか君としっかり手を繋ぎました。
巨大な手が風圧を伴って降りてきます。巨人の手です。このアラクネの糸の工房を充分押しつぶせる大きさ。
この糸の館は安全ではない。
「潰れるよ!」
アラクネは糸を出し、その手が作った風圧に糸を載せ、自らを空中へ。
私は私でゆたか君を抱いて翅で。
私たちが脱出するのと同時に、巨大な手はアラクネの工房を叩き潰してしまいました。
ちなみにその手は手首から先だけです。切れたトカゲの尻尾のように、手首だけが動いている。
手は潰した工房を握り、持ち上げ、〝手のひら〟を開き、あたかも中身を見て確認するように動き、バラバラになった工房を捨てるように落としました。
巨人の手と書きましたが、手先だけは見えて後は透明な巨人がいるよう。
その巨人が、〝獲物を捕らえ損ね、落胆〟。
手のひらが再び下に向けられます。何を捕まえ……
「うげっ!」
ゆたか君が言い、対して私は息を呑みました。
5つの手指、指紋の渦巻きが出来る部分に〝目〟が現れたからです。
指先に目を持った手のひらの怪物。
風が人の悲しい思いであるなら、この怪物は人のどんな思い。
手指が、その目を、一斉に、こちらへ向けました。
目が合います。つまり、ターゲットは私。
ゴオッと唸り立てて捕まえに来ます。私は羽ばたいて逃れます。
目線から離れようと手の後ろ、すなわち手の甲へ回ります。
ところが、そこにもスーッと裂け目が生じ血が流れ、大きな目が現れました。
〝手のひらを返して〟襲ってきます。
(つづく)
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