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桜井優子失踪事件【5】

【覚1】
 
 切羽詰まった顔の担任代行。
 何かあったのである。察して静まりかえった教室内を見回し、自分を見つけ、真っ直ぐ目線を合わせ、タイトスカートの裾を直す。
「黒野(くろの)さん、桜井(さくらい)さんとは今朝は…」
 それは空席の主。
 そして。
「は…」
 理絵子は絶句する。〝抜け落ちた〟本質こそは桜井優子(ゆうこ)の事だと合点が行ったのだ。
 桜井優子は〝2度目の2年生〟である。反体制的な外見もあって疎外されがち。だからこそ理絵子は彼女を理解し、良き友である。件の事件以前、理絵子の超常を知る友は彼女のみであった。
 桜井優子に何かあった。彼女の存在は自分を構成する一部であり、だから〝抜け落ちた〟のである。
「優子に何か」
 声が震える。超能力を持ちながら最大の存在を喪失したことに気付かない自分の愚かさ。
「家の方から電話があって、どこにもいないらしいのよ。今朝は一緒じゃなかったみたいね」
「ええ。はい」
 桜井優子は前述の状況から〝きちんと〟学校に通うタイプではない。そこで存在証明と学業補填を理絵子が保証している。そのせいもあり、理絵子は桜井優子が登校しなくても特段気にしたことはない。ただ、出席日数が足りない事態は避けるようにはしている。
 だから今朝も気に留めなかったのであるが、良く考えたら、彼女は新学期だけはきちんと顔を出していたのだ。「りえぼーがアリバイを要求するから」
 ポケットで携帯電話が呼ぶ。なお、この中学では理絵子たち学級委員が同盟組んで校長に談判し、授業妨害をしないとの約束に基づき携帯持ち込みを許可させた。
 緊急連絡はもちろん、それが一縷のコミュニケーションという深刻な子もいるからだ。
 着信は自宅から。
「失礼して」
 その場で受ける。恐らく、桜井優子のことに相違ない。
 着信ボタンを押すなり母親の焦った声。桜井さんがいなくなっちゃったって?
「今先生に聞いたところ…父さんは…うん判った…千葉の方は?」
 千葉は千葉県である。桜井優子の父方実家は同県の農家であって、理絵子の知る限りこの冬休みはそちらに行っていた可能性が高いのだ。
 しかし。
 どうやら祖父母宅には行っていない。

つづく

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