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桜井優子失踪事件【8】

【覚4】
  
 テレパシーで呼ばれたのである。金髪のイメージは理絵子へのメッセージ。己れは何者か。
 当然、理絵子も彼女を知っている。この学校でそんな芸当が出来る娘は一人だけ。
 その娘は、顔を上げた理絵子を見て、〝我が子を守る母ネコ〟という感想を持ったようだ。
 対し、理絵子の感想を書くならば、クリスタルの無垢さを備えた細面。
 高千穂登与(たかちほ・とよ)という。同学年で別クラス。巫女のような名だが、両親が願ったかどうかさておき、実際巫女のような能力を備えた。彼女とは先の北村由佳の件で対立したが、その後和解した。今は超能力つながりの理解者だ。金髪は二人が共有する秘密。
「私の心配は……」
 登与は語尾を濁すように言い、学生カバンを持つ手をギュッと握りしめ、うつむいた。
 事情を知らぬ者が二人を見ていたら会話が突飛に聞こえるであろう。登与は今、理絵子が浮かべた懸念に対し、言葉で答えた。
 理絵子の懸念。
 始業チャイムが鳴ってからの登校は当然遅刻である。だが、それには理由があって、なるべく他の生徒達と一緒になりたくない、というものだ。
 登与は自らが霊能者であると公言していた。当初もてはやされたようだが、応じて言動が高飛車になったようで、次第に疎外されるようになった。
 そこで理絵子と〝験比べ〟を呈す有様となり、吹聴するほどの霊能ではないと周囲は認知。今は級友達の視線が刺さって痛いので時間をずらしている、というわけだ。
「あなた自身大変なのになんで私に気を遣って……そんな優しい……」
 登与は続けてそう言うと、ぽろりと涙ぐんだ。次いでカバンから左手を離し、目元を拭う。
 彼女は桜井優子が失踪したと具体的に察知している。しかし、理絵子がそれでも自分の方を気遣っていると知り、心揺さぶられたようだ。
 瞬間、意識を刺し貫くような感覚が理絵子を捉える。直感という矢が突き刺さり、貫き、同時に登与をも刺し貫いた。
 二人同時に感じ取ったそれの正体。
 私たちの、このたった今の出会いは、用意された。
 抜け落ちたものへ抗うため、用意された。
「手伝っていい?」
 波紋広がるようなイメージと共に、登与は訊いてきた。
 力になりたいという強い気持ちが波のように広がり出ている。
 もちろん、今ここで出会った意図を登与も感じ取ったのである。薄く笑みを浮かべ、その瞳は黒水晶のように深々と漆色に輝く。
「あなたには助けてもらった。あなたがいてくれるから私はそれでも学校へ来ようと思う。この瞬間が運命であるなら私はあなたをサポートしたい」
 超感覚のコミュニケーションは不可思議そのものである。
 そして、超感覚の答えは一瞬で明快だ。
「来て」
「うん」

つづく

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