ブリリアント・ハート【43】
レムリアは言うと、お冷やを口にした。
あすかちゃんは夢見る少女の表情。
「魔法に掛かった気持ち」
と一言。レムリアはドキッとした。あすかちゃんは続けて、
「全然遠い遠い存在だったのに、うちに来てくれて、一緒に逃亡して、こうやってお喋りまで…。真夏の昼間の、お姫様との大冒険。多分私の一生の思い出」
レムリアは微笑した。但しその魔法は私じゃなくて。
「多分、その魔法は、あなたを全然違う女の子に変えた」
レムリアは言った。もう目の前のあすかちゃんは、おずおずと質問した引っ込み思案で臆病な女の子ではない。自信がもたらすオーラの煌めきを纏い、大人の入り口に今しっかりと立ち、ドアノブに手を掛けた少女に変わった。
「結局、目的意識なんだと思う…」
「お待たせしました。…あの、お客様ちょっとよろしいでしょうか」
レムリアのセリフを遮ってウェイトレス、それに続いて渋面のホテル支配人、真剣そうな警官、困った顔のお役人。
まず、紅茶とケーキがテーブルに置かれる。その作業を見つめる困った顔の面々。
「あのう、失礼ですが」
支配人が声を掛けた。
「はい。まだ時間には少々あると思いますが?もう準備の必要がありますか?」
多くを語る必要はない。これで主旨は伝わる。
果たしてお役人がため息…それはまるで娘にプチ家出された父親。
「どこにいらしてたんですか?」
小声で尋ねる。
「…は?」
レムリアはまずは尋常にとぼける。
「お部屋にいらっしゃらなかったようですが」
丁寧だが怒りを含む。しらじらしいこと言うなこのガキャ。そんなところか。
対しレムリアは“姫”の品格を意識して至極丁寧に。
「先ほどからこちらのラウンジに。あ、お友だちと待ち合わせがあったのでちょっと下まで迎えに行きまして、今はご覧の通りの状況ですが。何か?」
「何か…って、姫様あのですね」
お役人が怒り通り越して苦笑する。会話がちぐはぐ…で、良いとレムリアは思う。意図してそうしているからである。そもそもの前提条件が違うので、そうならなくてはならない。
(つづく)
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