桜井優子失踪事件【6】
【覚2】
「じゃぁ私から桜井さんとこ直接電話してみる。何かあったら。…判った」
電話を切り、担任代行に状況を説明する。級友達にはどうせ聞こえるのでそれで説明の代替とする。仮に心当たりがあれば嬉しいだけ。
まず背景として、著名なアニメで〝でいだらぼっち〟が出てきたのが全ての始まり。
「あれは古代製鉄につきものの伝説で、千葉は飛び抜けて足跡の言い伝えが多いと言ったら、面白そうって。足跡調べて自由研究にしようかなって。それで彼女、冬休みは千葉のおじいちゃんおばあちゃんのところへ行くって言ってたんですが」
「千葉にはいつまで?」
「それが、おうちの方の話では、千葉には顔を出してないそうです。それで私の家の方に来ていないかと逆に問い合わせがあった次第で。家はクリスマス前から空けているとか」
クラスがざわつき始める。事件性の認識と、しかし、相手が相手だけに少し距離を置きたい。そんな雰囲気。
現在理絵子として確認すべきは2点である。まず、彼女は実際に足跡調査に着手したのか。そのアニメを見に行ったのは期末試験後、冬休み向け封切り直後。
次に、調査していたとして、千葉県内を回る〝足〟はどう確保したのか。
思いつくのは年上の彼氏である。外見はともかく律儀な男であって、彼女と過ごした翌朝はクルマで校門へ直送して来る。もちろん、理絵子の〝アリバイ要求〟を彼氏も良く理解してくれている。そのこともあって、理絵子は桜井優子の行方や挙動をリアルタイムで追ったりはしていない。
一般にクルマ持ちの彼氏がいるなら、広域移動が必要な場合は頼るのが自然だろう。自分ならそうする。体の良いデートの動機である。今回、彼氏は調査には同行していないのか。
「父親を通じて警察も把握していると思います。私は私で判る範囲調べてみようかと」
それはマンガよろしく中学生が授業サボって探偵ごっこ。
問答無用で却下されて当然だが。
「判ったわ。あなたも気になって学校どころじゃないでしょう。どうせ今日は学活だけだし、校長には私から言っておくからこのまま外れてくれていいわ。何か動いたら連絡頂戴」
担任代行は腕組みして若干、胸を張った。
それは教師の反応としては落第かも知れないが、大人の対応としては極めて心強い。
「判りました。ではお言葉に甘えて失礼します」
理絵子は頭を下げ、学生カバンだけ持って昇降口へとって返す。走りながら桜井優子の携帯に発呼すると〝掛かりません。電波が届かないか、電源が……〟。
次いで、始業のチャイム23秒を待ち、靴を履き替えながら桜井宅に電話。
話し中。思いつく限りの手がかりに電話をされていると見られる。
であれば、と発呼したのは学校近くの喫茶店マスター。
桜井優子とその彼氏を構成員に有する珍走団〝たこぶえ〟のリーダー。
当然、構成員達のたまり場であって、学生達は接近禁止が原則。
(つづく)
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