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桜井優子失踪事件【12】

【鍵4】
 
 次にレポートのドラフトが無いか探す。相談を受けた際、「体裁はどうでもいいので、まずは調べたことを全部書き出して」と彼女には提案した。タッチパッドに指先を滑らせ、スタート、最近使ったファイル、
 するとワープロソフト「一太郎」にて作成したファイル「でいだらぼっち」が存在する。
 開くと、尋ねた場所の日時と写真、現地の説明看板の写し、土地の人に尋ねた結果のメモ書き。
 すなわち、彼女は千葉に出かけたことは出かけ、数カ所回った。
「これを…優子ちゃん一人で…」
 母君は感慨深げに言った。
「優子、千葉まで行ってる事は行ってます」
 プロパティを見たら最終編集は13日前。
 クリスマス前から不在という母君の話と一致する。試験後の土日や、天皇誕生日周辺の連休を利用してここまで調べ、書いた、ということだろう。少なくとも言えることは、ここまで作ったのに、いきなり調査を放棄して云々は考えにくい。
「来る」
 と言ったのは登与。
 え?と尋ねながら、理絵子は登与が超感覚で察知したのだと確認した。何者かが、この家に来訪した。
 警察。今、門扉の呼び鈴が押された。
 ベル音。ジリリン。
「あら、ちょっとごめんなさい」
 母君が立って退室する。警察は自発性が無い旨先ほど聞いたところだ。ならば、父親の差し金か。
「どちらさまで……はい、門は開けましたので中へどうぞ」
 インターホンで母君が答え、部屋の二人に警察の方が、と声を掛け、玄関へ。
 しばらくして玄関引き戸が開閉し、革靴が三和土を打ち、男の声。
「娘さんの部屋はどちらで」
「その明かりの漏れている……」
 程なくアルミ襖の向こうに現れた長いもみあげの男。スーツをまとい、整髪料とタバコのニオイ。
 少女二人は男を見上げる。二人して、敵だ、と視線に表したかも知れないが仕方がない。
 何せ相手がこっちに好意を持っていない。
「何だね君たちは。学校はどうしたのかね。奥さん、関係ないのを勝手に入れてもらっちゃ……ああ、君があれか、黒野……」
 不機嫌そうに矢継ぎ早。そして、自分の名が出る辺り、やはり父親の仕掛けか。
「はい、黒野の娘です。いつも父がお世話になっております。今日は学活だけですので、終わり次第心配して飛んできました」
 理絵子はまずは尋常に答えた。

つづく

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