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町に人魚がやってきた【2】

「ベッピンだなぁ。乳もオレのかあちゃんよりでけぇ」
 おじさんは上半身。脇の下に腕を入れて抱き上げる。
「前にも人魚を?」
 オレは下半身。ヒレ持ったら破れそうなので、それこそマグロか、でかいタイみたいに脇に抱える。
「んなわきゃねぇだろ。お前人魚だぞ人魚」
 じゃぁ何で当たり前のように反応するんだ佐熊のおじさん。
「ホレ乳ばっか見てねぇで運べ」
 見てないって。
 今は。
 傍目には睡眠薬を嗅がせて略取誘拐。或いは共謀して遺棄。
 警察が来たらどうしよう。
 懸念は杞憂。どうにかこうにか軽トラの荷台に上がる。
「フタ開けるから持っとれ」
「持っ…」
 持つってどこを。
 しょうがないので縦抱っこ。波打つ金髪は塩水乾いてガビガビ。人体の部分は寒いのか鳥肌でザラザラ。そしてサカナの部分は乾いてウロコのとげが立つ。
「重い…」
「ひっひっひ。オンナの身体の重さを感じる豪華さを知らんけ。チョンガーは悲しいのぉ」
 おじさんはバカにしながら水槽のフタを開けた。小さな円形のフタが3つ有るのは知っていたが、更に横の留め金を外すことで全体ががばっと外れるらしい。
 中でばっしゃばっしゃ音がする。
「何かいるの?」
「マグロだ」
「一緒にして大丈夫かなぁ」
「大丈夫だべよ。どっちも海の生物だしよ」
 オレは頷こうとしたが海の中にも食物連鎖はある。
 〝彼女〟が生きてるマグロをガツガツ食うとは思わないが、マグロは肉食なわけで…
 怖い考え。
「人魚気絶してるべ?動かないなら平気だよ。おめぇんなこと心配してやっぱりやめたって波打ち際にドッポン放り込むのか?ケガか病気かも知れねぇじゃねぇか。医者に診てもらうってのがスジってもんだろ」
「そう…だけど…」
 何かズレてる気がする。しかし医者に診せたいのは賛成だ。脚立を2つ立てかけ、二人左右に分かれて担ぎ上げる。今度はオレが上半身。
 
つづく

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