桜井優子失踪事件【18】
【呼3】
背後で襖が大きく開かれる。
「聞こえちゃって」
ノートパソコン抱えて登与が廊下へ出てきた。
画面を見せられるまでもなく、理絵子は知った。
本当にある、のだ。
登与の知識も踏まえて理解する。この列島は神々の御代を経て日本人の、人間の管轄に託された。それを神武天皇即位が象徴するなら、以来2660年超。21世紀現在ただいま、なお現存する禁足(きんそく)地。
神隠しの故に、柵で囲われて入れない土地。
千葉なのに?千葉だから?
「これは……」
登与が画面を母君に見せている。
「理絵ちゃん。優子ちゃんはここへ?このナントカ知らずで神隠しに、ということ?」
「何とも言えません。今はまだ何とも。ただ、彼女のメモにそこへ行ったという記述はありません」
それは掛かる問題に対する事実の一つ。
そして、焦点の定まった方針が一つ。
事態が動き出す、という実感を伴う予感が一つ。
理絵子は口を開く。
「お母様には警察ルートで大人の、現実的な対応をお願い致したく。私たちはおじいさま、おばあさまに安心してもらうためにも千葉へ行きたく」
電話の向こうにも聞こえるように。
「判った。親としてできるだけのことをします。そちらは任せて」
母君は強く返した。
理絵子は頷く。
「お願いします。……おばあさま、これからそちらへ仲間とお伺いしたいと思いますがよろしいでしょうか」
電話の返事は書くまでもなかった。登与も勿論頷いた。
電話を切る。すると間髪を入れず今度は理絵子の携帯電話がバイブレーション。
時を同じくしてオートバイのエンジン音。鋭い金属的な音響成分を含む。
「警察でしょうか」
「違います」
理絵子は言いながら携帯電話の発信者に目をやる。岩村正樹(いわむらまさき)……その喫茶店マスター氏である。表のバイクは氏の愛機であるRGV。つまり、携帯電話はの発呼は、来てみたが居るか?という意味であろう。
と、もう一台、大型の重い音が混じっている。
「はい。優子の家にいます」
『ヤツが来たから連れてきた』
ヤツ、つまり大型バイクの主は優子の現彼氏。
(つづく)
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