桜井優子失踪事件【16】
【呼1】
「…ええ、はい」
現在の彼氏と元の彼氏とが存在する。それは優子自身から聞いて知っていたが、大人の世界を垣間見たようでちょっとドキッとした。
さておき、戻ってきた答えは「ごめんなさい」
「親として知ってなくちゃいけないんでしょうけど。前が前だしね。でもだからって……」
母君は目を伏せ、首を左右に振った。
「そうですか…」
理絵子は思わずため息をついた。確かに異性の友人掌握するのは親の責務とは思うが、だからって正面切って年頃の娘に聞くのはヤボというものだろう。
他にツテは。これで手詰まりなのか。
いや。
桜井宅の固定電話が着信し、電子音を響かせる。
テレパスの娘二人は、それが〝来る〟ことは、地震速報よろしく直前に判じたが、静寂を割いての聞き慣れない大きな音は、心臓に悪いことに変わりなかった。
結局3人は一様に驚き、次いで母君が慌てて立ち上がり、廊下へ。
その和な背中を見送る。
「何か感じる?」
理絵子は登与に訊きながら、ノートパソコンの画面を閉じた。
「電子的な手がかりはここまで」
無論、超常感覚が何か囁いたか?という問いかけ。
今ここに二人だけだから出来る会話。母君は理絵子の能力を知るが、まだ中身を聞かれたくない。
「…何も。ごめん。もう少し力になれるかと思ったのに。テレビの心霊探偵とか見てて能無しとか思ってたけど」
登与はしょげたように目を伏せた。
「私も無い。多分誰がやっても無理でしょう。何らかの状況で彼女は意識がない状態。彼女の〝考え〟が止まっている。私たちはアンテナと受信装置に過ぎないから、放送が止まっている状態では」
理絵子の発言に登与はハッと息を呑み、顔を上げ目を剥いた。
「意識がないってまさか…」
「いる。いるけど。見えない。だから、答えにならない」
それは確信。自分が慌てつつも、パニックまでにはならない理由。母君に言えない理由。
ただ、残された時間はそう多くない。
優子。あなたどこにいるの?
廊下から母君の声。受話器を片手に顔を覗かせる。
「あの……理絵ちゃん。千葉からだけど、代わってもらえないかって……」
「私、ですか?」
それは当然、理絵子の能力を踏まえての要望であろう。理絵子が千葉へ行ったと書いたが、その理由は端的には〝お祓い〟だ。
(つづく)
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