町に人魚がやってきた【6】
「おお、人魚だ」
「ウロコの色つやが悪いわ」
以上医療関係者の感想。
バスタブに身を伸べる。ぬるま湯程度に温めてある。
「あはん」
人魚の口からそんな声。ただ、気が付いたわけじゃない。
「おめドコ触っただ!」
おじさん、えらい剣幕。
「あ~、今のは違うんだな。肺の空気が温められて、圧力が上がったもんで気道から出てきたんだな。その時に声帯が震えて艶色に聞こえたと。ところで直腸温を測りたいんだが」
先生、電子体温計を片手に、サカナの下半身を持ち上げたりひねったり。
「直腸温って」
オレは思わず訊いた。文字に置き換えて、体温計の形状を考慮すると、どこからどうやって測るものか、自ずから想像が付くのであるが。
する?
まさか、と首を傾げたオレに萌えボイスの解説。
「直腸で測るから直腸温なんです。成人の場合括約筋の影響を受けず、さりとて直腸を傷つける心配の少ない5から6センチ程度の深さまでソーコーして……」
えーと、それはつまり、要するに。
待て。医者の診察って最初に直腸温だっけ?
「まぁいい。人間と同じかワカランが口腔で測ろう。えーと」
先生、人魚の口を開いて体温計をぱくっ。
……確かその体温計で挿肛しようとかさっき。
普段は?
「運び込むぞ」
ストレッチャーに老若男女群がり、女一人マイナスして、計3人でせーのでどっこいしょ。
水面に仰向けで失神状態の美女有り。
ストレッチャーを動かすと、重心の関係かくるりと回転して俯せ状態。
そのまま微動だにせず。傍目に非常に印象悪い。
「この体温計……防水だったかねえ」
先生、心配点が違うと思います。
院内に運び込む。確か昭和ヒトケタの建築と聞いた。古い建物のギシギシ言う木のドアを開けてもらい、ストレッチャーをガラガラ。鉄筋で建て替えればいいように思うが。
受付待合いを横切る。〝患者様〟がいないのは単に過疎だから。
行き先は診察室前を通過してその隣〝検査室〟。
(つづく)
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