桜井優子失踪事件【17】
【呼2】
受話器を代わる。そばで心配そうに見守る母君。
「はい、黒野です。ご無沙汰しております」
登与にはテレパシーで全通し。
『ああ、理絵子様。いえいえこちらこそ。あなた様にそのような、恐縮です』
ゆっくりした口調は優子の祖母である。印象はこの母君がそのままお歳をお召しになった、そんな感じ。〝様〟付けで理絵子を呼ぶのはその来訪時以来のこと。正直、恥ずかしいのだが、都度固辞しても、命の恩人だからと受け入れてもらえない。
「いつぞやはお世話になりました」
『いえそんな、それは私どもが先んじて申し述べるべきことで。今回もわざわざ優子ちゃんの為にご足労を。何と申し上げて良いやら。それで……実は、新しく何か判ったわけでは無いんですけれども、その件でどうにも胸騒ぎが致しまして、あなた様のお電話番号を伺おうと電話したところ、あなた様がお見えと伺って』
「何か思い当たる節が?」
電話越しのテレパシーの確度は知らぬが、胸騒ぎの中身はヒントになりそうだ。〝お祓い〟と書いたが、裏返せば憑依・取り憑きの類である。
経験者の胸騒ぎ。
登与が同様に感じたようで、自分に強く意識を向けているのを知る。
『神隠しでは、と』
「は……」
神隠し。
忽然と行方不明。何の手がかりもなく。
その後、瞬間移動としか思えない場所で発見されたり。
それきり見つからなかったり。
いずれにせよ、神様にしか為し得ない技であるから、神様がお隠しになった。
日本古来の〝心霊現象〟である。しかし理絵子自身は懐疑的だ。多くは人さらいや単純な行方不明が後年伝説になったものと考えている。なぜなら、本当に心霊現象であれば、現代でも尚引き続き存在するはずだし、自分の能力でなにがしか〝痕跡〟が拾えるはずだからだ。
しかし実際には時代を下るにつれて減っている。社会の近代化で阻止されているならば、神隠しの前提は山野と夜闇に紛れること。すなわち人為的の可能性大。
幾ら千葉が貝塚群に代表される古い土地とはいえ……。
対し。
『まさか、とお思いかも知れません』
古い土地だから……。祖母はそう言った。
21世紀に神隠し。
つまり、本気で心配される根拠が存在するということ。
「理絵ちゃん?」
受話器持ったまま、虚空を見つめて動かない理絵子に、母君が心配そうに訊いた。
(つづく)
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