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町に人魚がやってきた【4】

 自分だけ異邦人の気分。
「おじさん」
 オレは鼻歌ハンドルのおじさんに訊いた。
「あんだよ」
「何でみんな人魚なのに驚きもしねぇんだ?」
「驚いてどーすっだ?お前」
 その答えにオレが驚いた。
「だって人魚だぜ?いるわけがないってのがいたんだぜ?科学の常識を根底から覆す…」
「あに大げさ言ってっだおめぇは。干からびそうだから助ける。それだけじゃねぇか。科学の常識なんかどーでもええんだよ。干物にしたら世界中から非難だぞ」
 いや、そーなんだけど、そーじゃないだろ。
 どう言えばいいのか。
「人魚って現実を受け入れてるわけ?」
「おめ、さっきからおかしいぞ」
「だって人魚……」
「それが何かマズイんか?驚いたところでこのねーちゃん目を醒ますんか?目に見えてるモノをイチイチこれは本当けえ?とかインテリくせぇこと思ってるうちにどんどん干からびるぞ。おめぇには現実即応能力が身についてねーな。早くヨメ娶れ。父ちゃんやってるとなぁ、判断する前に考える余裕なんか与えられないこともあんだよ」
 何だこの説得力。
 言い返すセリフを考えるが、ジョン・カーペンターの映画みたいに殴り合いになっても困るし。それにまぁ、第一に考えるべきはこの人魚の命だろうから、ここで色眼鏡は邪魔だ。
 オレはあっさり試合放棄した。そのうち岩窟のトンネルをくぐって、咲間診療所の看板「ようこそ!」
 ……病院にウェルカムボードが適切けえ?という話はさておき、診療所の前では先生と作間さんが待機している。ストレッチャー(車輪付きベッド)に、石けんのCMで乳タレントが入ってるようなバスタブを載せ、中では湯だか水だかゆーらゆら。
 何だこの用意周到。
 軽トラックを横に着ける。
「暴れてる……ようだが……?」
 バシャバシャという音にコメント有り。ゆる~い声はここの医師、咲間花一郎先生、御年92。ひょろっとして白衣の上に聴診器。老眼鏡。頭は山崎豊子の超大作。
「マグロマグロ。人魚は寝とるよ」
 おじさん軽トラから飛び降りながら軽く一言。確かにおじさんはちょいと早口だとは思うが。

つづく

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