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桜井優子失踪事件【15】

【鍵7】
 
 しかし、祖父母宅には一度も姿を見せていない。
 当然、どうやって、となる。理絵子が持っていた推論は。
 訊きたい母君が捜査員氏と共に戻って来た。
「君たち何か判ったかね」
「ファイルの更新は13日前。連絡が取れなくなった日の1日前です。彼女が尋ねたのは製鉄遺跡を中心に下総6つ、上総も1つ。その後、安房へ向かうような示唆を残してレポートは切れてます」
 理絵子の説明に捜査員氏は首を左右に振った。
「それは『それだけ行きました』だけに過ぎない。まぁ後々の捜索の邪魔にならないようにな。こんなコト本来は許されないんだが、お母様が仰るには、君たちが来てくれて少し動揺が収まったそうだから、今日の所は無罪放免にするがね。ではお母様、これは確かに」
「はい。よろしくお願いいたします」
 捨て台詞を残し、書面を見せてポケットに戻し、捜査員氏は玄関へ向かう。
「ちょっとお送りしてくるわね」
「はい」
 革靴が三和土を鳴らし、引き戸が開き、閉じる。
 聞こえてくるため息一つ。
「嫌みな人……しょうがないんでしょうけど」
 母君はそう言いながら部屋に戻ってきた。
「私一人で警察へ行くなんて心細くてしょうがなかったと思う。あんな言い方したけれど、そんなの嘘。あなたたちが来てくれて太陽が射したように違う」
 母君は袖口を目に持っていった。
「何かあったら飛んできてくれる……とても幸せなこと……あなたたちにもきっといつか……いえ、そんなことがあっちゃだめね……ああごめんなさい調べ物邪魔して」
 狼狽があり、突如センチメンタルになり。極端な感情の動き。
 不安定なのである。この母君を一人きりに出来ない。邪魔だろうが真似事ママゴトだろうが、
 自分たちが来たのは間違いではなかった。
「母親失格ね。何も把握してないし何も動けないんだもの」
「黒野さん何か訊きたいことがあったんじゃ?」
 登与に言われて理絵子は思い出した。
「あのお母様すいません、優子の彼氏さんの連絡先をご存じないですか?」
 それは体のいい話題転換にもなる。
「今の?」
 母君は袖下から目を見せて尋ねた。

つづく

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