町に人魚がやってきた【12】
先生は言って、自らうんうん頷いた。
海底の続き。
人魚「地震と津波は避けられないと」
神「その通りだ。目先目先の地震を封じて秋津島瑞穂の国を沈めたいか。オレに出来ることがあるとすれば、それがいつ来るか判る。それだけだ」
人魚「では、それを地上の人々にお伝えする分には……」
神「構わぬ」
以後、人魚はこの神の元で、共に暮らしながら大地の理を学び、地震が来るとなると地上に上がるようになったとか。
ちょっと待てい。
「え、じゃぁ今朝海岸にいたのは地震が来る……」
オレが気付いて言い、みんな一斉に腰を浮かせたが。
「いえ違います。神の仰せになるには、『最早人間は地震を予め知る術を身に付けた。しからば、汝を引き留めておく要もなく後ろ暗い。長き時を経ており、汝戻れども咎める者の無きこと明白。戻りて達者に暮らせ』。で、元の家にと思ったのですが……もう無いですよね。ああ、そんな気がしてきました面倒かけてすいません」
人魚しょんぼり。ここまでの話し方から考える限り、ちょくちょく地上を訪れ、〝本人〟はそれなりにソフィスティケートされてきたようだが、300年は300年である。
「それがこの地図なんだなぁ」
先生しみじみ。
「この集落で間違いないのかい?えーと、つまり、地震が来る時はいつもこの集落に?」
おじさんが訊くと、
「あの松を目印にしてました」
あの松とは来る時くぐった岩窟トンネルの上に生えてる年代物の松の木。
戦国時代からあると言うから。
「図書館に何か古文書言い伝え無いすかね」
オレは提案した。
「行ってみるっぺか」
先生が答えて立ち上がり、事務机の電話子機を手にする。古い書物は一般公開されないのが普通で、閲覧は許可制が普通だろう。対し黄門ファンでこの街じゃ顔も広い先生の電話は説得パワー充分。
問題は確かめる方法だ。照合ソースは人魚の脳内。
「あー館長かね。オレだ、オレオレ。そうだよ先生だよ」
詐欺かいな。
「人魚連れて行っていいか?」
(つづく)
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