桜井優子失踪事件【21】
【疾2】(承前)
犬のコロは飛びついてきて理絵子をペロペロ。背後で仲間達と祖母殿が挨拶。
「こんな多くの皆様にご心配をおかけして……何と申し上げて良いやら」
「お気になさらず、友達ですから」
「仲間ですもん」
祖母殿は割烹着の裾を目元に添えた。
「ありがたいことです……本日は遠くまでわざわざありがとうございます。古いところですがお上がり下さい。オートバイは庭の空いている場所にどうぞ。お昼を用意してあります。お話ししたいことも御座いますので、どうぞご遠慮なく」
【秘1】
海産物と農産物は千葉の宝とか。
通された和室の座卓には、大皿に山と盛られた山海の幸の天ぷら。
しかもエビなど目を瞠るほど大きい。時刻のせいもあるが、空腹であることを認識させられる。
「まずはお召し上がり下さい。夫はもっと早くに戻ってくる予定だったのですが。冷めないうちに」
とはいえ、無遠慮にパクパク食べられる気分ではない。
「桜井さんからよろしくと仰せつかって参りました」
理絵子は切り出し、収集した情報と、今後の予定を整理して話した。優子は千葉の遺跡巡りをしていたのは確かで、安房の方を目指した。従って、探す目標は安房の遺跡であるが、色んな時代、種類の遺跡があり、どの種の遺跡に行ったかは、彼女が目指した意図を知る必要有り。
つまり、ある程度、でいだらぼっちが何者か、こっちも調べて仮説を立て、彼女の解答を探る。
「それでしたら、夫が今、寺の住職に古い話を聞きに行っております。参考になるかも知れません」
「それは、その神隠しの件ですか?」
登与が尋ねた。
祖母殿はゆっくり頷き、
「ええ、禁足の伝承を持つ遺跡を存じ上げないかと。あわよくば何か文献でも借りられたらと……ああ、帰ったようです」
祖父殿が帰宅したようである。コロが吠えている。庭先からこちらを覗き込む男性の姿。
「理絵子様がもうお見えかね」
玄関引き戸が開いて声がした。
「ええ。先に食事を召し上がってもらっております」
襖の向こうに現れた老男性。白髪だが地肌が目立つ頭部、ウィンドブレーカーにマフラーを巻き、両腕で抱えた段ボールの箱。
この家の主、桜井優子の祖父殿。
(つづく)
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