町に人魚がやってきた【10】
「ああ、これ地図か」
されど、その地図はスーパーのチラシに描いてある〝当店位置〟のレベル。
縮尺も、どの地区かもワカランでは探しようがない。そもそも日本なのか…まぁこの人魚日本語喋るし、日本と考えるのが自然なのだろうが。
各人でその〝地図〟を回して眺める。
「これだけじゃ正直ワカランなぁ。どこに何しに行きたいか、差し支えなかったら教えてくれんか?」
おじさんの質問に、人魚はまずお茶を飲み。
「話せば長いんですけど」
「おお、ええよ」
「延宝(えんぽう)五年の話になります」
「1677年だな」
先生即答。水戸黄門大好き。
「そら長いわ」
「なゐ(地震)とかいしょう(海嘯・津波のこと)がありまして、これは海の神のお怒りだとお告げがあったとかで、人身御供を出そうと言うことになり、私が」
「なんだ短いじゃないか」
先生ちょっと待ってください。彼女は元は人間で生贄として海に入って、そのまんま何百年か生きていて人魚になってしまったということになりますぜ。
「延宝地震か」
おじさんが訊いた。
「後世の方々はそう呼んで?」
人魚の問いに、回答は萌えボイスから。
「揺れは小さかったのに津波は大きかったって地震かしら?」
「はい」
「じゃぁ、その地震だわ」
先生、頷いて膝を打つ。
「なるほどなぁ。神様のお怒りと感じるだろうなぁ。揺れは小さかったのに津波ばかりがでかいんじゃぁなぁ。しかし、お前さん良く生きてた。なんでだ?」
「それが海に投げ込まれた直後は苦しくなって諦めたのですが、その後突然楽になりまして」
「それは死んだんじゃなくてか?」
「私もそう思ったのですが。どうも海の底だと息ができまして」
人魚苦笑い。
「先生、それは医学的にどういう」
オレが訊くと。
(つづく)
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