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町に人魚がやってきた【9】

「エビと小麦粉、デンプンを練り固めた物よ。塩で味を付けて植物油で揚げてある」
 萌えボイスが答えてカリカリ。
「えらく詳しい答えですね」
 オレが訊いたら。
「あら、この位この職にある者として把握してて当然でしょ。アレルギーやカロリー制限については常に念頭になくちゃ。リスクの自己管理ね」
 そんなもんか。
「僕はぁ。こんな菓子の成分まで気にしたことはないなぁ」
 先生、その血圧なら塩分は余り気にならないと思います。
「ふ~ん」
 人魚は寄り目になるほどえびせんをじいっと見つめて、真似してカリカリ。
「……なるほど、アカエビ、キシエビ、サルエビ」
「入ってるエビの種類が判るのけ?」
 驚いたのはおじさん。まぁおじさんも調理場の人だから、舌は肥えてると思うが、えびせんの〝原材料〟をテイスティングするのはさすがに無理か。
「時々エビの種類が変わってるのは知ってたが。具体的な品種まではなぁ」
 それでも種類の変化判ってたんかい。
 以下、しばらく人魚囲んでおやつ。ぽりぽり、かりかり。
 人魚囲んで。
 ちょっと待てそれでいいのか。
「で、何で海岸に打ち上げられてたわけ?」
 オレは訊いた。
「おおそうだよ。何か忘れてるなぁと思った」
 おじさんが膝を叩いた。
「ああ、忘れてました。ええとですね」
 人魚はこともなげに言い、慣れた手つきで粉だらけの手をパンパン叩いて、
「ここを探しに来たんです」
 どうやら首に何かぶら下げているらしい。波打つ見事な金髪をたくし上げ、ゴソゴソ。
 さすがに見慣れたお乳の谷間。細いチェーンの先に水晶のインゴット。手のひらサイズの六角柱。
 中をくりぬいて何やら紙が丸めて入れてある。ネジ式の蓋を開いて取り出す。
 手渡されたそれの感触は和紙。何か描かれてあるが、広げると文字というより幾何学模様。真ん中には穴が開いている。
「地上では、何がドコに置かれているか、このような模様で表すとか」
 
つづく

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