町に人魚がやってきた【16】
人魚の持たされた地図が正確ならば、この地図と全体や、或いは部分が一致するはずであるが、描かれた道の数がまず違う。海岸線でも判ればいいが、残念なことに描かれていない。
「わからんな」
「パターン認識システムに通してみるか」
館長は言うと、貸し出しカウンターの奥の方を指さした。それは一見すると、CMで良く見る高額なオフィス用複合プリンター。
「なんだいそら」
おじさんが訊きながら興味津々の目でカウンターへ歩き出す。館長の説明に曰く、画像をコンピュータで読み取り、部分或いは全体の〝類似度〟を見分けて数値化する。似てます度95%とか出てくる。
「マハラノビス・タグチ・システムを仕込んである」
「そらハイカラな機械だなや」
言ったのは昼下がりの図書館妻の一人。病院の3次元MRIといい、佇まいは田舎の風でも時代なり。
人魚は技術討論が人ごとみたいにもう一人のおばちゃんとダベって笑っている。共通の話題があるとは考えにくいんだが、既に茶飲み友達状態。オンナってすげえ。
「てえことはそのキカイ、おらの顔がヘプバーンに似てるかどうかとか判るのけ?」
ヘプバーンは往年の名女優オードリー・ヘプバーンのこと。
「そそそ。喩えはイマイチだがそういうことだ」
館長が機械のスキャナー蓋を開く。
図書館エントランスの自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませ……ってウチじゃなかったわね」
と言ったのは萌えボイス。その発言色んな意味で間違いだらけ。
そして。
「は……」
思わず息を呑む。エントランスにずらり並んだ町の皆さん。
宮司さんと住職が隣同士。その後ろにおばちゃんとかおばちゃんとかおばちゃんとか。
「おめでたいことだと神社にお知らせしただよ」
「人魚さんに何かあっちゃなんねえと思ってお寺に相談しただよ」
神父さんまで来ないだろうな。
「牧師さんはこっち向かってるとこだで」
神父と牧師はどっちかがどっちかで、この町にはどっちもあったが、まぁこの神仏習合スーパーの状況でそこだけ区別しても無意味だろう。
「あ、テレビとか新聞には言ってないだよ。見せ物にされたら可哀想だべ」
(つづく)
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