桜井優子失踪事件【31】
【伝6】
ここで男の子だったら、「ちくしょー」とか「くそー」と言うんだろう。それこそ優子は実際そう叫ぶ。
「ふぅ」
「いらいらしないで」
登与になだめられる。最大の能力を意味するはずの霊能は頼りにならない。その状態とはかくも不安というか、行動の芯・コアになる物を欠くのか。
「ちょっと失礼」
気分転換に立ち上がり、縁側に出てコロを呼ぶ。
「お前のご主人はどこ行ったんだい」
尻尾を振ってコロは走って来、後ろ足で立ち上がって理絵子にじゃれつく。
無論、自分の力が弱まっているなどではない。現にコロの好意も強く感じる。しかし、核心の周辺で空回りしている気がしてならない。プラネタリウムのCGアニメでブラックホールに落ちそうで落ちない星を見たことがあるが、そんな気分だ。可能性は数多出てきたが、どれもあり得そうでどれも違う。確固たる物は、
〝自分たちは真実を捉えていない〟
このままでは堂々巡りに陥る。変化が欲しい。手がかりが欲しい。
警察は本当に何もしていないのか?
父さん、情報をリークして。彼女の携帯電話の電波はどこまで。
「あの……」
恐る恐る、といった感じで口を開いたのは佐原龍太郎。
「こういう事オレが訊いていいのか判らないけど、岩さん、優子の元彼って、どんな男だったんです?」
「お前が気にする事じゃないだろ」
「い、いや、そうなんすけど、理絵ちゃんみたいな子が友達だったら、彼氏もそれなりじゃないと務まらないなと思って。勉強の話はしないにしたって、話題のレベルがその」
「気になるか」
「はい。まぁ。自分、正直今ここに付いて行けてないです」
そういう差異を男性は気にするとそれこそ優子に聞いたことがある。男なのに年上なのに、と。
ちなみに優子は留年という事実の故に成績を低く見られがちだが、実際にはそんなことはない。あくまで留年の原因は出席日数で、学習に対する態度はむしろ真摯という言葉が使える。実際言ったら本人は「粋がってるだけ」と笑っていたが。
だから、当てずっぽうでどこか入り込んで行方不明とは考えにくいのである。目処と目算があってどこか目指したに違いないのだ。
(つづく)
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