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町に人魚がやってきた【14】

 道沿いの店のおばちゃんとか、その店に来ていたおばあちゃんとか、たまたま歩いていたおばちゃんとか。
 基本漁師町なので、町行く人は圧倒的に女性陣。しかもお互い顔見知り。
 そのただ中に滅多に来ないドクターカーが走ってきた。みんな出てきて取り囲んで質問責めは当然か。
「いんや。人魚を図書館へ連れて行くんだな」
 先生ストレートすぎます。
 ところが、おばちゃん達驚くどころか動じない。
「あらそうかい」
「そら珍しいもんだ。しっかり調べてくれろな」
「おうよ勿論。さてちょっくら通してもらっていいかな」
 そんな会話をし、少し走っては別のおばちゃんに捕まって似た会話もう一度。
 どうにか町を抜けて、くねくね道を上って図書館まで……なるほど30分掛かった。
 図書館は2階建ての四角いビル。エントランスではグレーのスーツを着た白髪の男性が手を振っている。
「よう先生。ヒマだったからまぁ丁度良かったなや」
 館長のやっぱり佐久間。……曲がりなりにも税金でお給金もらってるはずで、〝ヒマ〟は問題では?
「なーんか資料あったけ?」
 先生がクルマの窓から顔出して訊き、次いでドアを開けて降りる。
「それがおもしれぇのがあったぞ。ぴちぴちぷるんぷるんのおなご打ち上げられたりし時この書開くべしとな。人魚のことじゃねぇかな。どれどれ見せてくれ人魚」
「まぁまぁ見てくれ人魚」
 荷室の扉を開いてご開帳。
「きゃ……あ、どうも」
 人魚は挨拶のまばたき。他方館長……頬を薄紅に染めて目尻を下げた。
「こらめんこいな」
 めんこいはカワイイの意。
「だべ?んだべ?」
「こりゃぁぴちぴちのぷるんぷるんに認定だ。しかもねーちゃん、金髪かえ」
 何だか場末のお水の店みたいだ。
「お、恐れ入ります」
 男丸出しの感想連発という状況。人魚は少々気圧された感じでまばたき。
「髪は塩素で脱色されたんだろて。下ろしていいか?」
「おうおう。ささ、良く来た。入ってくれ」
 
つづく

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