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桜井優子失踪事件【30】

【伝5】
 
 それは深遠な事実の反映か、偶然の一致か。
「そういや」
 マスターが指をパチンと鳴らした。
「バイクの面倒見てくれてる鈑金屋のオヤジが面白いこと言ってましたね。ヒントになるかどうか判りませんが、物体を意味する『もの』って言葉は古来鉄そのものを指したそうで」
「ほほう。どういうことです?」
 祖父殿が尋ねると、マスターは登与からシャープペンシルを借り受け、彼女が書いたその下へ書き出した。
 
・もの を作る もののべ
・もの で作った武器 もののぐ
・もの で武装した もののふ
(作者註:この説はその筋では定説らしい。作者が直接この説を見かけた参考文献は「古代の鉄と神々・改訂新版」/真弓常忠 学生社 1997年)
 
「ほほう。なるほど」
 祖父殿は頷いた。
「くろがねは土より出でて耕す道具として土に実りをもたらし、戦となればそれを振り回して武器としたわけですな。農機具が古来大切にされるのも道理と」
「え?ちょっと待ってそうすると」
 シャープペンシルは理絵子へ。
 
・もの が化けた もののけ
 
「おお」
「これも同類?」
 物の怪、すなわち妖怪こそは巨人、偉躯の何たるかを指したのではないのか。
 その発見は、近づいてきた、という示唆を理絵子に与えた。しかし、まだ核心ではない。
 早く探しに行きたいと思う。そう思うと、しばし遠ざかっていた焦りの気持ちが一気に吹き出す。彼女はどうしているのか。大丈夫なのか。
 こんなことしてていいのか。
 警察の方はどうなっているんだろう。
 目を閉じて遠感を働かす。何か、何か無いか。

つづく

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