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めーるぼっくす

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2010年2月

桜井優子失踪事件【35】

【因2】
 
 貝塚を作ったのは縄文人。
 少女二人は思わず見つめあう。古代伝承において、身体的特徴が誇張されて伝わった挙げ句、巨人やリリパットに行き着く例は少なくない。コロボックルなんか典型。
 だいだらぼっちもその一種、すなわち、貝塚説明で生み出された創造の怪物ではなく、当然の結論として行き着いた存在なのではあるまいか。
 縄文と、製鉄と、だいだらぼっちが繋がった。
 理絵子は書き出す。
 
・だいだらぼっちは弥生製鉄民族に使役された体格の大きな縄文人ではないか
 
「安房地域に貝塚以外の縄文遺跡はありますか?」
「鉈切(なたぎり)遺跡ですな。大地震で隆起した海蝕洞穴で、中から土器が出ています。古墳時代の墓所を経て、今は海の守り神ですね」
 理絵子の問いに祖父殿が答えた。
 すると今度は登与が尋ねる。
「私は安房の神様について整理させて下さい。四国の阿波とつながりがある。……でもこれって忌部(いんべ)氏ですよね。天目一箇命の子孫とされる。物部(もののべ)氏は?確か物部氏も千葉と関わりが」
「それは下総の香取(かとり)神宮の由来ですね。経津主神(ふつぬしのかみ)です」
 香取神宮。最初に作られた神社カタログ〝延喜式神名帳(じんみょうちょう)〟において、〝神宮〟と正式に書かれた3つの社のひとつ。フツとは刀が鋭く断ち切る音を象徴し、その刀こそは、出雲の大国主命(オオクニヌシノミコト)の国譲りを経て、神武(じんむ)天皇が東征の際に手にした霊剣、布都御魂(ふつのみたま)である。ちなみに、神宮と書かれた他の二社は、霞ヶ浦を挟んだ対岸、常陸国茨城県の鹿島神宮と、言わずもがな伊勢神宮。
 これらのことは、ヤマト王権の支配エリアが東方に達したことと関連しよう。
P1030050
(鹿島神宮)
 ただ。
「神武天皇か」
 理絵子は、資料箱から出してもらった二振りの剣の絵を見ながら悩んだ。
 神武天皇は、布都御魂を手にして、東方の荒ぶる神々を平定した。
 日本武尊は、草薙の剣を手にして、東方の土蜘蛛を征伐した。
 神武天皇の言う〝東〟は、九州高千穂から大和地方を見た言い方。
 日本武尊の言う〝東〟は、大和地方から関東地方を見た言い方。
 神武天皇の剣は国譲りの話で出雲に突き立てられ。
 草薙の剣は出雲の怪物ヤマタノオロチの体の中から現れる。
 
つづく


町に人魚がやってきた【20】

「それ、書いたのどこの誰らかね」
 すると何のことはない。お寺の蔵書。
「あら和尚さんひどいわ」
 いや今ここにいる和尚さんのせいじゃないから。
「神社の方には何か儀式の記録とか」
 和尚さんの問いに、検索結果とのリンクはないが。
「海神様への捧げ物に何かあるかも知れんなぁ」
 それがこの図書館にスキャンされた電子データで所蔵されているのがまた何とも。
「その、人身御供は延宝年間と伺ったが」
「はいそうです」
 すると、ある。延宝五年、女体一柱。
 にょたい。にょ。この響きの、いや、控える。
「これだな」
「名前は?」
「ないな。祟りを恐れたか。しかし30年ほどして宝永地震と富士山の噴火があるはずだが、その時あなたは出てきたかい?」
「はい。ないくる・ないくる・うそぶききたる・にげよ・しらせよ・うそぶききたる」
 その呪文のような人魚のセリフに何人か驚きの声。
 なぜなら。
「海嘯女(かいしょうめ)だな。それならウチの文書にある。館長出るか?」
 住職が腕組みして言った。それは海への敬いを失った人や村へ現れるというこの地方のローカルな妖怪。
 果たして寺の蔵書にあり。端麗な容姿で人を騙して村人を集め、もてなしをさせ、暗がりで酔いつぶれた頃地震と津波で皆殺し。現れる時は波打ち際で道訊きを装う。親切に教えると、そのセリフを唱えながら去って行き、目的の集落が津波に襲われる。
 嘘を教えると海を泳いで後から付いて来て、嘘つきの集落が津波に襲われる。
「津波は海嘯と書く。無視とほら吹きの嘯くと全く同じ字だ。その辺に起因する戒めだろう。その、禍物封じも見てみようか」
 それは神社の蔵書。闇にまぎれて骨食う女は禍々しい。魔性の力で昼であっても周りを闇にする。そんな女が水打つ時は、怨呪の儀をしてちぎってしまえ。
「えんじゅのぎ?」
「当社秘中の秘ですな。まぁ最も陰陽道華やかなりし頃の話で科学技術万能の現代ではどうでもいいことですけどね」
 神主さんここに人魚がいます。
「出ますかね館長、秘文」
 
つづく

桜井優子失踪事件【34】

【伝8・承前】
 
『そうか。もはや今更だから手を引け言わんが気をつけろよ。岩村なんか一緒なんだな』
「うん」
『ならいい。よろしくな。桜井さんにも』
「判った」
 電話は切れた。
 安房の入り口、いや上代の見方なら出口か、鋸南町。ヤマトタケルノミコトとダイダラボッチの接点。
 オンライン、これは恐らくオンライン、主旋律を走っている。理絵子の確信。
 後は……地名、地形、地質、そして、神様。
「黒野さん」
 登与が幻の風土記断片を手にして呼んだ。
 
【因1】
 
「こんな文書見つけた」
 登与は前置きし、漢文体を訳してこう口にした。
 
 土蜘蛛が大穴に住んでいたので従わせた。その中にとりわけ大きな蜘蛛がいたので天目一箇神に仕えさせた。蜘蛛は百年働いて猫山を作って死んだ。後年、蜘蛛の祟りで猫山が雨のたびに崩れて道を塞いだため、祟りを鎮めるために穴に人身御供を捧げたところ、雨が降っても道が崩れる事はなくなった。
 
「クモがネコかい?」
 マスターが尋ねる。
「クモは縄文人のことと聞きます。彼らは胴が短くて手足が長く、屈強な体つきをしていた穴居民族。その姿、穴に住むクモの如し。ネコは……ネコは?」
 理絵子の問いを登与がリレー。
「ネコは寝た粉。水底や製鉄炉の底に沈んだ砂鉄の隠語です」
 二人はマスターにそう説明した。産鉄に関わる言葉は隠語が多い。〝もの〟の万能性故に敵対部族への隠蔽を意図したか。
「なるほど、大きな蜘蛛のような人か。大きな人が出てきたじゃないか」
 マスターの言葉に二人は触発された。
「あっ!」
 特に偉丈夫な縄文人を製鉄の蹈鞴踏みに使役。
 
つづく

町に人魚がやってきた【19】

 プロジェクタにパソコン経由で画像がつながって表示。〝黄泉之国道先案内〟(新字体表記)と書かれた墨絵。人魚の地図はそのコンパクト版だというのが照合システムのコンピュータ様の見解。両者重ねて表示してあり、なるほど一致しているように見える。更に黄泉の案内に関連があるのだろう、地図や資料がリストされてズラリと並ぶ。
 ただ、そのリストは「女の呪い」とか、「禍物(まがもの)封じ」とか、おどろおどろしいものばかり。
「いやだ気持ち悪い」
「これ壊れてんじゃないの館長」
「使ったの初めてだからなぁ」
 一方宗教関係者は真剣に討議。
「黄泉の国と言えばイザナミの……」
「いや神父さん。これはむしろギリシャ神話の冥府を彷彿させる。どうですか和尚」
「ゾロアスターの教典でこんなのを見た気が」
 すると。
「そったら難しいもんであるわけないべ」
 先生が一刀両断。
「おお、ゴルディオンの結び目」
 関係者が揃って反応。で、あなた方は黄門ヲタクの物言い検証しなくていいの?
「姨捨伝説だ」
 鍋パーティが静まりかえった。
 それは、日本各所に、存在した。
 もちろん、この地方にも。
「もし、人身御供が助かったとか、追って打ち上げられた時の対策だろう。地図の通りに行けば……」
 先生は近隣の〝姨捨山〟の名を挙げた。
「そこへ行く。或いは地図に従って持って行かれる。厄介は村に及ばない。というわけだ」
「館長。裏打ちするような文献でも?」
 オレが訊いたら。
「この呪い云々を開いてみるか」
 江戸時代の書き方なので先生が読み取って現代文訳。
『その昔いけにえにされた女が、海の上へ顔を出すことがある。女を見た者は女の呪いで大津波に掠われる。見たら殺すかひたすら逃げろ』
「地震のお知らせで出てきたので、こんな風に思われたんですね」
 人魚はしみじみという感じで言った。モチを食べてにょ~んと伸ばす。
「やだひどい。こんなに可愛いのに」

つづく

桜井優子失踪事件【33】

【伝8】
 
 しかし、電話をスライドさせたところで、桜井家の電話が先に音を立てたので、発呼を躊躇。
 超感覚が反応する。これは父親だ。でも何故携帯ではなく?
 祖母殿が立ち上がり電話を受け、こちらに顔を向ける。
「あの、理絵子様、お父様から」
 理絵子は立ち上がり、受話器を変わった。
「ありがとうございます。……何か判った?」
『やっぱり千葉にいたか。桜井家ならおおっぴらに掛けられるからな』
 なるほど。
『携帯電話の軌跡が取れた。そばに地図あるか』
「地図を」
 それこそ携帯電話の通話エリアである……
 基地局半径まで絞れるではないか。
『地名が判らなければ誰かに言って調べてもらえ。いいか』
 父親の言った地名を繋ぐと、アクアラインから内房側を経由し安房へ向かう軌跡が描けた。
 通ったと推定される高速道路・有料道路に男達がペンを走らせる。
『そこまでだ。ヒントになりそうか』
「彼女の携帯電話だけ?一緒に動いた電話機とかない?」
 理絵子は訊いた。口調が性急になっていると自分でも判る。
『当然調べた。そうしたらだな。10台ほど一緒に動いている』
 10台。自分の推論はハズレか。すると。
『10台は一旦八王子(はちおうじ)に集まってから、集団で移動している。高速バスかと思ったんだが、八王子からアクアライン経由千葉へ向かうような路線はない』(2009年末現在)
 ならば。
「その中に彼女の元彼……名前は」
 マスターの言った名を理絵子は伝えた。
『元の彼氏と一緒か。なるほど判った。調べさせよう。他には……ああ、最後に電波を拾ったのは鋸南町だ。一昨日の午前1時18分』
 それは先ほど〝でーでっぽの咳〟で聞いた名前。
 しかし、製鉄に関しては近代的過ぎる。
『我々もそこへ向かおうと思う。そっちはどうだ?』
「堂々巡り。ただ、元彼の可能性にたどり着いたところで父さんの電話をもらった」
 
つづく

町に人魚がやってきた【18】

「夢見るように過ごした気がします。日が昇るわけでもなく、月が輝くわけでなく」
「浪漫的だね」
「ろまんちっくだわ」
 実際にはもう少しおばちゃんコメントがあったが略す。
 とにかく人魚がひとこと言うと二言三言四言五言コメントが付く。
 人魚は嬉しそうにおにぎりを頬張った。
「真っ白いお米のおにぎりなんて。……たまに地震の知らせを受けて陸に上がると、前と景色が変わっているんです。時が過ぎている、と感じました」
 タラの切り身を半煮えでバリバリ。骨も皮もお構いなし。
「感傷的だわ」
「せんちめんたるね」
「まぁあれだ、安心おしよ」
 唐突に萌えボイスの作間さんが言った。何を安心?
「私らはあんたを歓迎するし、あんたが住みやすいような環境も作るから」
「ありがとうございます……」
 人魚のナミダ。
 しかしナミダの人魚のまわりは町内会の鍋祭り。
 喧噪を破いてピピッ、と電子音。……作業させられてそのまま放置の照合装置から、原稿置きっぱなしの警告。
「おおいかんいかん」
 館長が焼きイカのゲソくわえてバタバタ。人魚の地図を取り出しの、結果を貸し出しカウンター脇のパソコンに覗きに行きの。
 マンガみたいな驚きの表情。
「先生、神主さん、和尚さん」
 この場の〝識者〟を一斉呼び出し。
「合致したのは黄泉の旅路の地図、と出たのだが」
 識者たちはそれぞれに驚きの言葉を口にしながらパソコンへ。
「この画面では小さくてワカランなぁ」
 先生が老眼鏡を鼻に乗せたり目を細めたり。
「大きくしましょうか」
 館長が言って、ボタン一発色々作動。窓には暗幕カーテンが下りて、大きなスクリーンとビデオプロジェクタが天井からするする。
「あら映画でもやるんらかね」
「真っ暗になったら闇鍋だねぇ」
 だから主旨は人魚の消息探しだってば。
 
つづく

桜井優子失踪事件【32】

【伝7】
 
「気にするな。オレもワカランから。それぞれ得意があるってことさ。大事なのは相互の敬意。さて質問の答えだが、一口に言うと墜ちた秀才、だよ。医者の子が医学の入試に失敗して壊れっちまった。机かじりつきが燃え尽きて破裂。一切捨て去って両極端な珍走団へって良くあるパターンだ。優子と意気投合してな。今思えば英才教育とみなしごだ。極端同士惹かれ合うところがあったのかもな。優子のカテキョやってたぞ」
 その説明に佐原龍太郎は目に見えて萎縮。カテキョは家庭教師の意。
「医者の……それが、どうして、オレなんかと」
「お前が自分の力だけで生きて行こうとしている男だからだよ」
「そうじゃなくて。えっと……」
「別れた理由も知りたいか?そういうことだよ。親の金に飽かせてこともあろうに中学生の女の子に手を出すような自堕落なヤツは消えて失せろってな。俺が引き裂いたって方が正確かな。〝たこぶえ〟は硬派だけが生き甲斐って奴のたまり場だ。まぁ最も、その七光りの親の金で優子も好き放題やってたのは確かだけどな」
 東京の桜井家は代議士。オカネモチのお坊ちゃんとつながりがある。まぁ不自然ではない。
 そこで小さな示唆。その逆、つながりがあるのが自然。
「マスター」
 理絵子は可能性に気付いて問うた。
「……理絵ちゃんその目怖いよ。何か気付いた?」
「その元彼さんも、走る、ですよね。要するに」
「ああ、ドゥカティとか乗ってたな。デカイのは小回りがきかないから止めとけって……二人が撚りを戻したってのかい?」
 強く反応したのは佐原龍太郎だが。
「というより、彼女は義理堅いわけですよ」
 理絵子は言葉を濁した。彼女は元彼との思い出を甘酸っぱい記憶として持っている。以前チラリと言われたことがある。すなわち、二人の仲はケンカ別れしたわけではない。引き裂いたというマスターの言葉の通り。
 従って何かのきっかけで二人が再会すれば、会話があって不自然ではない。そこで遺跡巡りの話が出て、彼が〝足〟を買って出たのなら。
 優子は千葉が好きである。自分を幾度か招く位である。
 であれば、同棲状態まで行った彼氏を……この桜井家に招きはしなくても、一緒に千葉まで、位はあるのが自然ではないか。なれば、彼氏も千葉の道路地名は学習するだろう。何よりバイク乗りだ。
 理絵子は内ポケットから携帯電話を取り出す。それこそ父親を通じて〝桜井優子とペアで動いた携帯電話の足跡〟を追えばよい。そして、片方が今も動いているなら。
 
つづく

町に人魚がやってきた【17】

 ぞろぞろ入ってきて集団で人魚しげしげ眺めて何言うか。
「めんこいな」
「乳でけぇな」
 男って他に言うこと無いのか。自戒を込めて。
「ようし、これだけいるならオレのマグロさばくか」
 おじさん。旅館のおかずじゃないの?
「あら、じゃあウチの野菜持って来ようかね」
「もちつき大会で汁粉作る大鍋があるべや」
「図書館で宴会は……」
 オレが異議を唱えると。
「あに正義感ぶってるだよ」
「こったらめんこい客様、もてなさないでどうするだべよ。ご先祖様に申し訳が立たないべ」
 更に館長自身も。
「まあ佐久間の。書架はみんな2階だから、下で何かする分には構わんよ。この手の古書類は空調付きの別部屋だしな」
 別部屋、と館長は自らの肩越しに後方を指さす。閲覧室の更に奥側〝部外者立ち入り禁止〟。
「ほれ見い」
「佐久間の。あんたも手伝え」
 この後は主婦の集合体という側面もあり、準備の早いことこの上なし。
 人魚囲んで鍋パーティ。いやこの光景って変だから、尋常じゃないから、絶対。
「しかし、あんでおめさん魚みたいになっちまったんだべ?」
 おばちゃんのひとりがあんこモチ頬張りながら尋ねる。
「魚ばかり食べて、泳いでばかりいました。そのうちに足にヒラヒラしたものが出てきて、両方の足のひらひらがくっついてしまったんです。そのうちお肌の肌理が硬くなってウロコみたいに。化け物になるかと思いましたけど、泳ぐの速くなりましたし、どうせ帰ってくるなって話だったし、まぁいいかと」
 人魚はカニの足を殻ごとバリバリ食った。
「まぁ人間もサカナのなれの果てだから、先祖返りしてもおかしくないわなぁ」
 医者の認識としてそれで適切なのか先生。
「しかし300年経ってるにしては若いワナ」
「わしらのご先祖様より歳食ってるわりにゃぁ、わしらの方が先立つなどう見ても」
「んだ。わはは」
 爆笑の渦。
 
つづく

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