町に人魚がやってきた【19】
プロジェクタにパソコン経由で画像がつながって表示。〝黄泉之国道先案内〟(新字体表記)と書かれた墨絵。人魚の地図はそのコンパクト版だというのが照合システムのコンピュータ様の見解。両者重ねて表示してあり、なるほど一致しているように見える。更に黄泉の案内に関連があるのだろう、地図や資料がリストされてズラリと並ぶ。
ただ、そのリストは「女の呪い」とか、「禍物(まがもの)封じ」とか、おどろおどろしいものばかり。
「いやだ気持ち悪い」
「これ壊れてんじゃないの館長」
「使ったの初めてだからなぁ」
一方宗教関係者は真剣に討議。
「黄泉の国と言えばイザナミの……」
「いや神父さん。これはむしろギリシャ神話の冥府を彷彿させる。どうですか和尚」
「ゾロアスターの教典でこんなのを見た気が」
すると。
「そったら難しいもんであるわけないべ」
先生が一刀両断。
「おお、ゴルディオンの結び目」
関係者が揃って反応。で、あなた方は黄門ヲタクの物言い検証しなくていいの?
「姨捨伝説だ」
鍋パーティが静まりかえった。
それは、日本各所に、存在した。
もちろん、この地方にも。
「もし、人身御供が助かったとか、追って打ち上げられた時の対策だろう。地図の通りに行けば……」
先生は近隣の〝姨捨山〟の名を挙げた。
「そこへ行く。或いは地図に従って持って行かれる。厄介は村に及ばない。というわけだ」
「館長。裏打ちするような文献でも?」
オレが訊いたら。
「この呪い云々を開いてみるか」
江戸時代の書き方なので先生が読み取って現代文訳。
『その昔いけにえにされた女が、海の上へ顔を出すことがある。女を見た者は女の呪いで大津波に掠われる。見たら殺すかひたすら逃げろ』
「地震のお知らせで出てきたので、こんな風に思われたんですね」
人魚はしみじみという感じで言った。モチを食べてにょ~んと伸ばす。
「やだひどい。こんなに可愛いのに」
(つづく)
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