町に人魚がやってきた【18】
「夢見るように過ごした気がします。日が昇るわけでもなく、月が輝くわけでなく」
「浪漫的だね」
「ろまんちっくだわ」
実際にはもう少しおばちゃんコメントがあったが略す。
とにかく人魚がひとこと言うと二言三言四言五言コメントが付く。
人魚は嬉しそうにおにぎりを頬張った。
「真っ白いお米のおにぎりなんて。……たまに地震の知らせを受けて陸に上がると、前と景色が変わっているんです。時が過ぎている、と感じました」
タラの切り身を半煮えでバリバリ。骨も皮もお構いなし。
「感傷的だわ」
「せんちめんたるね」
「まぁあれだ、安心おしよ」
唐突に萌えボイスの作間さんが言った。何を安心?
「私らはあんたを歓迎するし、あんたが住みやすいような環境も作るから」
「ありがとうございます……」
人魚のナミダ。
しかしナミダの人魚のまわりは町内会の鍋祭り。
喧噪を破いてピピッ、と電子音。……作業させられてそのまま放置の照合装置から、原稿置きっぱなしの警告。
「おおいかんいかん」
館長が焼きイカのゲソくわえてバタバタ。人魚の地図を取り出しの、結果を貸し出しカウンター脇のパソコンに覗きに行きの。
マンガみたいな驚きの表情。
「先生、神主さん、和尚さん」
この場の〝識者〟を一斉呼び出し。
「合致したのは黄泉の旅路の地図、と出たのだが」
識者たちはそれぞれに驚きの言葉を口にしながらパソコンへ。
「この画面では小さくてワカランなぁ」
先生が老眼鏡を鼻に乗せたり目を細めたり。
「大きくしましょうか」
館長が言って、ボタン一発色々作動。窓には暗幕カーテンが下りて、大きなスクリーンとビデオプロジェクタが天井からするする。
「あら映画でもやるんらかね」
「真っ暗になったら闇鍋だねぇ」
だから主旨は人魚の消息探しだってば。
(つづく)
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