町に人魚がやってきた【17】
ぞろぞろ入ってきて集団で人魚しげしげ眺めて何言うか。
「めんこいな」
「乳でけぇな」
男って他に言うこと無いのか。自戒を込めて。
「ようし、これだけいるならオレのマグロさばくか」
おじさん。旅館のおかずじゃないの?
「あら、じゃあウチの野菜持って来ようかね」
「もちつき大会で汁粉作る大鍋があるべや」
「図書館で宴会は……」
オレが異議を唱えると。
「あに正義感ぶってるだよ」
「こったらめんこい客様、もてなさないでどうするだべよ。ご先祖様に申し訳が立たないべ」
更に館長自身も。
「まあ佐久間の。書架はみんな2階だから、下で何かする分には構わんよ。この手の古書類は空調付きの別部屋だしな」
別部屋、と館長は自らの肩越しに後方を指さす。閲覧室の更に奥側〝部外者立ち入り禁止〟。
「ほれ見い」
「佐久間の。あんたも手伝え」
この後は主婦の集合体という側面もあり、準備の早いことこの上なし。
人魚囲んで鍋パーティ。いやこの光景って変だから、尋常じゃないから、絶対。
「しかし、あんでおめさん魚みたいになっちまったんだべ?」
おばちゃんのひとりがあんこモチ頬張りながら尋ねる。
「魚ばかり食べて、泳いでばかりいました。そのうちに足にヒラヒラしたものが出てきて、両方の足のひらひらがくっついてしまったんです。そのうちお肌の肌理が硬くなってウロコみたいに。化け物になるかと思いましたけど、泳ぐの速くなりましたし、どうせ帰ってくるなって話だったし、まぁいいかと」
人魚はカニの足を殻ごとバリバリ食った。
「まぁ人間もサカナのなれの果てだから、先祖返りしてもおかしくないわなぁ」
医者の認識としてそれで適切なのか先生。
「しかし300年経ってるにしては若いワナ」
「わしらのご先祖様より歳食ってるわりにゃぁ、わしらの方が先立つなどう見ても」
「んだ。わはは」
爆笑の渦。
(つづく)
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