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桜井優子失踪事件【34】

【伝8・承前】
 
『そうか。もはや今更だから手を引け言わんが気をつけろよ。岩村なんか一緒なんだな』
「うん」
『ならいい。よろしくな。桜井さんにも』
「判った」
 電話は切れた。
 安房の入り口、いや上代の見方なら出口か、鋸南町。ヤマトタケルノミコトとダイダラボッチの接点。
 オンライン、これは恐らくオンライン、主旋律を走っている。理絵子の確信。
 後は……地名、地形、地質、そして、神様。
「黒野さん」
 登与が幻の風土記断片を手にして呼んだ。
 
【因1】
 
「こんな文書見つけた」
 登与は前置きし、漢文体を訳してこう口にした。
 
 土蜘蛛が大穴に住んでいたので従わせた。その中にとりわけ大きな蜘蛛がいたので天目一箇神に仕えさせた。蜘蛛は百年働いて猫山を作って死んだ。後年、蜘蛛の祟りで猫山が雨のたびに崩れて道を塞いだため、祟りを鎮めるために穴に人身御供を捧げたところ、雨が降っても道が崩れる事はなくなった。
 
「クモがネコかい?」
 マスターが尋ねる。
「クモは縄文人のことと聞きます。彼らは胴が短くて手足が長く、屈強な体つきをしていた穴居民族。その姿、穴に住むクモの如し。ネコは……ネコは?」
 理絵子の問いを登与がリレー。
「ネコは寝た粉。水底や製鉄炉の底に沈んだ砂鉄の隠語です」
 二人はマスターにそう説明した。産鉄に関わる言葉は隠語が多い。〝もの〟の万能性故に敵対部族への隠蔽を意図したか。
「なるほど、大きな蜘蛛のような人か。大きな人が出てきたじゃないか」
 マスターの言葉に二人は触発された。
「あっ!」
 特に偉丈夫な縄文人を製鉄の蹈鞴踏みに使役。
 
つづく

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